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“残るもの” を作りたい ー トレンドを追いかけ続けたデザイナーが、作品づくりに込めた想い【前編】

画面いっぱいに、生命力あふれる植物を描くMIHO KAWABATAさん。長きに渡ってデザイナーとして働かれてきたMIHOさんが、ご自身の「作品」を描くようになったきっかけや描く動機について伺いました。

時間に縛られる生活がイヤになって、社会人5年目で独立

—— 現在はご自身でデザイン会社を経営されながら、作品づくりもされています。もともとはデザイナー志望でいらっしゃったんですか?

専門学校ではイラストを専攻していて、当時はイラストレーターを目指していました。でも当時は、私の地元の大阪ではイラストレーターとして就職できる会社があまりなかったため、デザイナーとして印刷会社の制作部に就職しました。

—— イラストレーターになるために、例えば 東京へ行くことは考えなかったんですか?

当時は東京の会社でも、イラストレーターとして就職できる会社はゲーム会社が多かったように思います。私が描きたかったのは、絵本や童話に使われるような絵だったので、やりたいこととは全く違うことをするために東京に出ることは考えられなかったですね。

—— 印刷会社に就職されてから、どのくらいで独立されたのでしょう?

会社では4年ほど働いて、それから独立しました。

—— けっこう早くに独立されたんですね!ちなみに、なぜ独立されたのでしょう?

一番は、時間に縛られた生活が辛かったことです。毎日朝8時には出社して、夜遅くまで働いて。とにかく朝早いのがすごく大変だったんです(笑)。

デザイナーとはいえ、制作部所属の社員という扱いだったので、ほかの部署の皆さんと何ら変わりない待遇でした。朝は全員8時までに出社して、女性社員はみな規定の制服に着替えるという決まりもありました。

—— デザイナーさんでも制服着用だったんですね...。

そうなんです。制服とか勤怠がけっこうきびしい会社だったので、余計に縛られてる感があったんだと思います。

仕事面でも、すでに長く取り引きしているお客さんからの決まった案件ばかりだったことも不満でした。デザイナーとして入社したのに、一からデザインさせてもらう機会がほとんどなくて。そういうことが嫌になってしまったんですね、それで独立しました。

—— 就職された4年後に独立。なかなかにチャレンジングな人生ですね!

当時は、若かったんです(笑)。独立したときは、たしか25歳くらい。あんまり深く考えずにやってしまったんだと思います。

お客さんも案件数も、独立当初は順調だったものの、かなり厳しい時代も経験することになったので、あまり計画性は無かったかなって、今になって思いますけどね(笑)。

02

誰もがデザインできる時代だからこそ、自分らしさを出していきたい

—— きびしい時代をご経験された現在は、デザインだけでなくイラストの仕事もされているそうですね。

はい。デザインの仕事って、いまや「誰にでもできる時代」になってきているような気がしていて。そうなると、私はイラストを描くことでしか自分の持ち味を出せなくなるのではないかって考えるようになって、それでイラストの仕事も受けるようにしたんです。

—— デザインは、いまや「誰にでもできる時代」になってきていると。

例えば、WEBサイトを作ろうと思ったときに、ちょっと検索するだけで素人の私でもわかるようなハウツー記事があったり、選ぶだけでデザインが完成するテンプレートがあったりしますよね。

チラシや広告制作でも、エクセルとワードのソフトだけですごく素敵なデザインをつくってしまう方がいて。今の時代、「パソコンが使えれば、自分でデザインできちゃう」って思っている方は多いと思うんです。実際に、独学で作られたWEBサイトや広告を公開されている方はたくさんいます。

—— テンプレートやハウツーはネット上に溢れていますし、「簡単なものでいいから、すぐに欲しい!」というニーズであれば、自作したほうがお金も時間も節約できますからね。

そうなんです。そういうテンプレートやエクセル、ワードソフトだけでもデザインができてしまうこの状況を見ていると、学校で必死になって勉強していたデザインの教養って、果たして必要なんだろうか?って考えちゃいますよね。

経験上、専門学校で学んだデザイン史や◯◯論って、デザインの現場ではまったくといっていいほどに使わないですし、そういった話を軸にお客さんとお話しても、納得いただけることは少ないです。理論よりも「売れるの?儲かるの?」ということのほうが重要ですから。

MIHO KAWABATAさんの作品

—— 教養はなくとも、売れるデザイン、儲かるデザインを作ることができれば、お客さんがついてくるということですね。

私の知り合いのデザイナーにも、専門学校は行っていない、デザインの勉強も特にやっていないという方はけっこういます。しかもそういう方って、思考がとても柔軟なんですよね。変なプライドがないというか(笑)。むしろ今後は、そういった柔軟性の高いデザイナーへのニーズが高まっていきそうな気がしています。

—— インターネットが普及して、「コストをかけずに、でも見た目はよく!」みたいなニーズがどんどん増えています。こういった案件には、柔軟性の高いデザイナーが求められるのかもしれません。

もちろん、高い予算で「本気でデザインして欲しい」というお客さんもいます。そういう場合は、有名デザイナーや経験豊富なデザイン事務所に依頼されるんだと思います。

デザインの仕事も多極化してきている中で、私のようなポジションのデザイナーはどうしたら生き残れるのかと考えたときに、イラストはひとつの武器になるかもしれないと思ったんですね。

—— イラストは、“誰にでもできるもの” ではないと。

はい。理論的なデザインとは違って、イラストって「感情的に評価される対象」だと思っていて。どんなに筋の通った説明を受けたところで、好きではないテイストのイラストを好きになることって、なかなか難しいですよね。

上手いか下手かというより、自分が「好きか嫌いかという軸で、判断されるもの・されやすいもの」と考えると、絵ってなんだかすごいものだなって思いますね。

好きか嫌いかって、要は「感動したか否か」ということでもあるんですが、その「感動」の仕組みを、私たちはまだ解明できていません。どうすれば感動するのか、欲するのか、とても複雑なロジックが存在しているんだと思いますが、絵や芸術は、そういった難しいロジックを一瞬で解いて、私たちに「感動」を届ける、そんなすごい力を持っていると思っています。

03

一過性のトレンドではなく、普遍的なものを描いていきたい

—— 作品は、いつ頃から描かれているんですか?

昨年からですね。

—— お仕事のイラスト制作とは別に、なぜ「作品」を描こうと思ったのでしょう?

お仕事で描くイラストって、トレンドを意識した “消費される絵” だと思っています。そういった時代のニーズに応えた絵も描きつつも、それらとは対極にある「作品」も作っていかないといけないなと考えるようになって、描き始めました。

—— なぜ、そのように考えることになったのでしょう?

昔からファッションが好きで、仕事ではよくファッション・イラストを描いてきました。題材が「ファッション」ということで、つねに鮮度の高さを求められるため、時代にマッチした感覚を持ち合わせていないと務まらない仕事でした。

若い頃は、その都度 変化していくトレンドを追いかけることも楽しかったのですが、年齢を重ねていくうちに「このまま追いかけ続けていくことが、果たして正解なのかどうか?」と疑問を感じるようになったんです。

そこで、「可変的なテーマ」と「普遍的なテーマ」とを同時進行することはできないかと考え、であれば「自然をテーマにした物語を描きたい」と思うようになったんです。自然を選んだのは、もともと自然が好きだったことと、自然の中で体験した経験が何よりも大きな影響を与えてくれていると思っているからです。

—— 作品は、自然をテーマに描かれているんですね。

はい。現在インスタグラムにアップしている作品の多くは、石垣島の雄大な自然を目の当たりにして感動し、「ここ石垣島の絵を描きたい!」と思い描いた作品です。

石垣島で見つけた草花など、風景を題材に描いています。といっても、風景画というよりは「旅の思い出」を描いた絵と言ったほうが近いものですが。

04

主従関係をはっきりさせない「フラットな表現」に魅せられて

—— 風景画というより、パターンやデフォルメに近い印象を受けました。

フラットに描いてるということですよね。私はアンデルセンの童話が好きなんですが、彼のように人間も生き物も植物も、すべてを「フラット」に捉えて登場させる、そういう風に描きたいと思っているんです。

主従関係がはっきりしているものではなく、登場するモチーフのすべてが同じように扱われる、全てがフラットに描かれる、そういうイメージです。

—— 「フラットに描く」ということについて、もう少し詳しく教えてください。

浮世絵がわかりやすいかと思います。風景や日常生活を描いた浮世絵って、人間だけが主役でもなく、風景だけが主役でもない、全てフラットな関係じゃないですか。これって、日本独特の「主役をつくらない描き方」だそうで、私もこのフラットな表現を意識して描いています。

—— アンデルセンの童話でも、浮世絵にみられるような「フラットな関係」が表現されているのでしょうか?

そうですね。もともと西洋では、お姫様や王子様といった分かりやすいアイコンが主役で、まわりは引き立て役という主従関係のはっきりした物語が一般的でした。そんな中で登場したアンデルセンは、これまでにない、子どもや子どもの先生、生き物やおもちゃなど、本来は引き立て役に過ぎなかったものたちに光をあてたお話をたくさん生み出しました。

例えば、『すずの兵隊さん』というお話。登場人物は、なんと錫(すず)で作られた片足しかない兵隊の人形です。詳しい内容は省きますが、片足しかない人形という捨てられてもおかしくないようなものに光があてられている、とてもユニークな作品です。

この時代に、伝統や流行に流されず、アンデルセン独自の美意識で物語を作られていたこと、片足の人形のように、あえて誰も目を向けないような対象に光をあて、その美しさを見出されていたことが、本当に素晴らしいなと思います。

私も、目立ちはしないけれど、しっかりと根をはって生きている道ばたの花や野草などに目を向けて、その美しさを描いていきたいなって思いますね。

文・写真:mecelo編集部

後編では、MIHO KAWABATAさんが感銘を受けられたという「日本的な美意識」や「ありのままの美しさ」について、そして今後の取り組みについてお話しいただきます。

MIHO KAWABATAさんインタビュー 後編はこちら

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イラストレーター・アーティスト