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私たち日本人の美意識から生まれた日本画を未来へつなげたい ー 若き日本画家の挑戦【前編】

鮮やかな色彩とその中から現れるリアルな爬虫類をモチーフに、独自の日本画を描く大嶋仁美さん。インタビュー前編では、大嶋さんが美術の世界に足を踏み入れたきっかけや表現することの魅力、そしてモチーフとして描いている爬虫類についてお話しいただきました。

気がつけば美術を好きになっていて、表現することの虜に

—— どんなきっかけがあって、美術の世界に進まれたのでしょうか?

母が日本画が好きで、小さい頃から休日になると展覧会によく連れて行ってくれていました。作品を前にした母が「これは素晴らしい!」だとか「これはすごくきれいねぇ!」なんて感想を言っているのを間近でいつも聞いていたので、「美術ってすごいんだ!」って。

刷り込みではないですけど(笑)。そのまま自然と美術を好きになって、進路を決める際も、迷わず美大へという感じでした。

—— 美術の中でも、とりわけ「日本画」に魅せられたのはなぜですか?

日本画のもつ “写実性” でしょうか。日本画科の受験課題が、目の前のモチーフを水彩でリアルに描くというものだったのですが、それが自分にすごくよくマッチしていて、割りとすんなりと日本画を選んだ気がします。

—— 美大へ進学する際も、美術以外の進路というのは全く考えなかったのでしょうか?

考えなかったですね。中学・高校も、美術部でしたし(笑)。

気がつけば、美術を好きになっていて、そのまま表現することの魅力に取り憑かれて、そして今に至ります。本当に、美術だけを見てここまで来たという感じなので、むしろ他のことは何もできないんだと思います。

—— 大嶋さんにとっての「表現することの魅力」とは、どんなことですか?

自分の中で形にならない感情だったり思いが、自分でも想定していなかった形となって目の前に現れ出てくる面白さ、そしてその表現されたものを通して、たくさんの人たちと共感できることへの喜びですね。

前者は作品が完成間近になったとき、後者は展示中に作品の前で来場した方とお話ししているときに最も感じます。

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農業や美術のもつ “プリミティブ” さに魅力を感じている

—— 美術一本の人生を送られてきて、たまには「もう絵なんて描きたくない!」なんて思うこともあるのでしょうか?

ないですね。ないんですよ(笑)。よく聞かれるんですけど。

もちろん、思っているように上手く描けなかったり、またこんな変なの描いちゃったって、嫌になることは多々あります。

ただ、描いていて嫌になることはあっても、絵を描かない自分を想像することができないというか。うまく説明できないんですけど、絵って、ずっといつまでも描けるじゃないですか。何があっても、絵は描けるじゃん!って思えるというか(笑)。

他の仕事をしている自分というものを全く想像することができないので、どうしても “絵を描くことが人生設計の中心” にはなっていますね。

—— もはや、それ以外の人生はないんだと。

そうですね。絵を描くことに対して、なんら疑問を持ったこともないですし、辞めたいと思ったことも一度もない。逆に、絵を辞めたらいったい何をやるんだ、私?って感じです(笑)。自分がサラリーマンになって、毎朝会社に出勤する人生とか、やっぱりイメージできないですね(笑)。

—— イメージできないですか(笑)。

うちは両親が公務員で、祖父母が農業をやっていました。祖父母の家が近所だったこともあって、農家の仕事については小さい頃からよく知っていました。

なんというか、お天気次第の収入。お天道様の様子をうかがいつつ、手間隙かけて育てたものを売ってお金を得る。そのお金で種や苗を買って、またそれらを育てては売って収入にする。

そのサイクルを間近に見てきて、それがすごく「人間らしいな」って思ったのでしょうね。「無」から「有」をつくり出して、それを収入に変える。創作すること、ゼロからイチを生み出すことの楽しさに目覚めてしまったんだと思います。

—— ゼロからイチを生み出すことに、大嶋さんは “人間らしさ” を感じたんですね。

公務員やサラリーマンとして生きることを否定しているわけでは全くありません。ただ私は、農業や美術・芸術がもつ “プリミティブ” なところに魅力を感じているんだと思います。

大嶋仁美さんの作品

悩むことはネガティブではなく、ポジティブなこと

—— 大嶋さんといえば、やはりモチーフです。なぜ「爬虫類」なのでしょう?

私は、相手によって立場を変える自分であったり、自分の中の矛盾する感情、そして世界や身の回りとの関係性、そういったことを大きなテーマとして表現活動をしています。

なぜ爬虫類なのか?というと、単純に私自身が爬虫類を好きなことと、魚でも動物でもなく、そのどちらにも属さないのに、水陸どちらでも生きることができる彼らの生態が、私のイメージする心の中の “矛盾” のイメージに近いなと感じているからです。

どっちつかずであるが故に、漫画やアニメではよく悪役にされたり、かと言えば、白蛇などは神様の使いとして敬われることもある。両極端なイメージをもつ生き物である点にも、すごく魅力を感じています。

—— 「心の中の矛盾」ということですが、もう少し具体的に教えていただけますか?

人には、関係性やシーンによっていろんな「立場」が与えられます。あるときは娘で、妹で、でもあるときは学校の先生。またあるときは、誰かの恋人であったり。また、人は同じ相手や同じものに対して、すごく好きだなと思うときもあれば、あんまり好きじゃないなって感じるときもあります。

そんな風に、心って常に揺れ動いていて、一定ではありません。一定ではないからこそ、いったいどれが本当の自分なんだろう?って悩んだり、矛盾する自分の気持ちにモヤモヤしたりしますよね。

このモヤモヤを解消したいと思うのと同時に、これが普通なんだって、矛盾することなんて誰にとっても当たり前だし、それでいいじゃない!って思う自分もいる。それでいいじゃない!って思えれば、すごく楽になれるし、その解放された感覚がとても美しいなと感じたんです。

たくさんの矛盾を抱えていても、たくさんの割り切れないことがあっても、それが当たり前で、それでいいんだよって。そんなメッセージを伝えたくて、私は絵を描いています。

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—— 矛盾を矛盾のまま、受け止めてあげるわけですね。

そうです。矛盾していることを、あまりネガティブに捉えて欲しくないなと。モヤモヤしたり、頭の中がグチャグチャになってしまうことは、ネガティブなことではなくて、逆にポジティブなことなんだよと。

モヤモヤするということは、それは、自分がちゃんと “周りとつながって生きている” 証拠じゃないですか。だからこそ、ネガティブには捉えてほしくなくて、逆に素晴らしいことなんだよって伝えたい。

矛盾を表現したいと言っていますけど、本当に伝えたいのは「私たちは、ポジティブな関わり合いの中で生きている」、そのことなのかもしれないですね。

—— 爬虫類と花を組み合わせることが多いですが、これも “関わり合い” の表現として描いているんですか?

爬虫類と花の組み合わせは、敢えて両極端の、グロテスクなイメージの強い爬虫類と、誰もが美しいものとイメージする花を掛け合わせることで、どんな組み合わせであってもいいじゃない!という意味を込めています。結局は、皆いろんなものとつながっているんだから、その中での良し悪しなんてないと思っているんです。

あと、爬虫類が好きな私にとっては、爬虫類を描くこと自体はごくごく自然なこと、普通のことなんです。ただ、そこまで一般的な生き物でもないので、見慣れていない人からすると、ちょっと新鮮なモチーフに映るのかもしれませんね。

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爬虫類好きな私にとって、彼らを描くことは普通のこと

—— 大嶋さんにとって、爬虫類は逆に「普通」なんだと。

そうなんです。小さい頃から爬虫類が大好きなんですよ。なので唯一許せないのが、漫画やアニメに登場する爬虫類が、大体は悪者役になってしまうことなんですよね(笑)。

—— 確かに。敵役にされることは多いですよね(笑)。

爬虫類好きな私からすると、不快というか、それが許せなくて(笑)。ちゃんと見たら、もっといいところがいっぱいあるから!って。モチーフとして選んでいるのも、彼らの良さをアピールしたい下心があるのかもしれません(笑)。

—— 爬虫類好きのひとりとして、彼らの良さを世の中に伝えていきたいと。

何も特別なことではなくて、猫や犬を好きな人たちと感覚は同じです。ただ、好きになった相手がマイノリティだったというだけの話です(笑)。

動物全般、昆虫全般、生き物は皆好きなんですけど、その中でもどれが好きか?と聞かれれば、断然「爬虫類!」って答えますね。

文:mecelo編集部 / 写真:せきと かおり

後編では、現代の日本画について、そして日本画をはじめとする伝統芸術がもつ課題についてをお話しいただきます。

大嶋仁美さんインタビュー 後編はこちら

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Icon大嶋仁美

画家、アーティスト