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私たち日本人の美意識から生まれた日本画を未来へつなげたい ー 若き日本画家の挑戦【後編】

鮮やかな色彩とその中から現れるリアルな爬虫類をモチーフに、独自の日本画を描く大嶋仁美さん。インタビュー後編では、現代の日本画について、そして日本画をはじめとする伝統芸術がもつ課題についてをお話しいただきます。

西洋美術に対するものとして生まれた「日本画」

—— 日本画と聞くと、美術の中でもわりと敷居の高いイメージがあります。それは、作家さんにとっても同じでしょうか?

そうですね。やはり大学できちんと日本画を学んだ人でないと、手を出すのは難しいかなとは思います。

理由としては、画材の取り扱いが非常に難しいのと、専門的な知識が必要になってくるためです。なので、日本画材を使っている方の大半は、日本画科の出身だと思います。

—— 現代においても、日本画では “いわゆる日本画らしい” モチーフを描くことが多いんですか?

今の若い日本画家さんの多くは、日本画によくある花鳥風月ではなく、もっと現代的なモチーフであったり、自分が描きたいテーマを描いていることが多いですね。

—— 特に日本画的なモチーフを描かなくてもいいんですね。

日本画とはなんぞや?みたいな話になるんですが、そもそも「日本画」という言葉が登場したのが、明治時代に入ってからで。なので、「日本画」というカテゴリ自体、かなり新しいものなんです。

—— そうだったんですね。

明治以前に描かれていた床の間の掛け軸や屏風絵など、皆さんがよくイメージする日本の伝統芸術的なものも含めて「日本画」と呼ぶようになったのは、明治時代に入ってからでした。

おそらくは、西洋の文化が入ってきたことで、それに対抗する形で「これが日本の絵だ!」みたいに決めてしまったんだと思いますが、具体的な線引きがなかったため、今でも「日本画とはなんぞや?」みたいな論争が続いています。

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—— 単純に、日本画材を使っていれば「日本画」だということではないんですね。

画材で分けるにしても、同じ膠(にかわ)という画材を使う絵は、世界中に古くから存在しています。画材がアイデンティティなのではなく、「日本」が日本画のアイデンティティになってしまっているために、定義がざっくりというか、かなり曖昧なんです。

あと、ひとくちに「日本画」と言っても、伝統的な技法や主題を重視するもの、新しい試みを取り入れてより作家性を重視するもの、日本画材以外を併用するものなどさまざまです。

—— なるほど。どんなゴールを目指すにせよ、日本画材を使用する点は共通なんですね。

伝統的な日本画を描く場合も、そうではない場合も、日本画材を使うのであれば技法的には全く一緒です。昔から伝えられてきている絵の具の溶き方や道具の扱い方のような決まりごとについては、皆さん同じように守っていると思いますね。

なので、何をもって「伝統的」というのか... これも悩ましいところではあります。そういう意味では、画材の扱い方さえ習得できていれば、どんな絵を描こうが「日本画」だと言えてしまえると思います。

大嶋仁美さんの作品

望む色彩や表現は、日々の試行錯誤からしか生まれない

—— 日本画材は、扱いがかなり複雑だと聞きます。

日本画でつかう岩絵の具は、水彩や油絵、アクリル絵の具のように、チューブから出してそのまま使うことができません。岩絵の具と膠(にかわ)を、絵皿の中で指で混ぜ合わせてから使うのですが、これも単に混ざればいいというものでもなくて。

湿気の多い時は水を少なめにしたり、逆に湿気が少ない乾燥している時なら水を多めにしたり、絶妙なバランスで混ぜ合わせる必要があります。湿度との兼ね合いもそうですが、他にも筆使いであったり、色の重ね方であったり、自分が思ったとおりに描けるようになるまでには、けっこう時間がかかると思います。

—— たしかに。絵の具一色つくるだけでも大仕事ですね。

はい。岩絵の具は、水を含んでいるときの色と乾いたときの色が違います。それに一般的な画材であれば、例えば青色と黄色を混ぜたら緑色になりますが、日本画材の場合は粒子の大きさの違いによって、見えてくる色が変わります。

大きい粒子は下に沈み、小さい細かい粒子は上に浮き上がる。なので、青色と黄色を混ぜたとしても、比重で黄色が強く見えたり、青色が強く見えたりするんです。微妙な比重の違いによって色が変わってしまうので、表現したい色をつくるだけでも、日々技術開発の必要な画材でもあります。

—— 時間をかけて絵の具を用意して、さらにまた時間をかえて作品を描いていく...。

パソコンで思ったとおりの色をすぐにのせられる現代において、イメージした色を簡単にはのせられないというのは、日本画の難しくも面白いところかもしれませんね。

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—— 色の混ぜ方、重ね方... そういった複雑な技術は、どのように身につけるんですか?

基本的には、自分で試行錯誤していくしか道はないと思っています。

例えば、粗い粒子できれいなグラデーションを作ることはなかなか難しくて、私はそれが上手ではないので、今頑張っているところなんですが。

その解決方法を誰かに聞くにしても、ある人からは「一回全部ベタ塗りして洗っていくような感じでやるんだよ」と言われ、また別の人からは「とにかく刷毛を1回1回変えてぼかしていくんだよ」と。本当に人それぞれ、十人いれば十通りの方法があります。

なのでアドバイスを参考にしつつも、最終的には、自分の頭の中で「完成形のぼかしイメージ」を描きながら、どの方法がベストなのかを研究していくしかないと思っています。

—— 技法というものが確立されているわけではなく、常に自分で試行錯誤しながら、研究を重ねていかないといけないんですね。

昔は師弟関係があって、何々派のお師匠さんから学んでみたいな形があったのだと思いますけど、今は大学で先生から教わることがほとんどです。先生も、何々派に所属していたとかではありませんので、先生自体、自ら試行錯誤を繰り返して技法を習得しているわけで、さらにその下につくとなると、自力で頑張れ!的な部分は多いかなと(笑)。

なので、自分で調べて実験しながらやっている人がほとんどじゃないかなと思います。今は、派閥などのしがらみのない分、水彩画や油絵の技法を取り入れることもできますし。目指す表現に向けて、いろいろやりたいようにチャレンジしてみるというのが現代の技術習得の方法なのではないかなと思います。

—— そこまで手間のかかる「日本画材」を扱うことの魅力は何なのでしょう?

やはり発色の良さでしょうか。水彩絵の具や油絵の具は、顔料の上にコーティングがされてしまうため、本来の顔料の色が表面に出てきづらいんです。

でも日本画の場合は、顔料の粒子の下に膠(にかわ)の層があるため、顔料そのもの色の美しさが表面にでてきます。なので、発色が素晴らしく良く、さらに煌めきをもって発色してくれます。

岩がもっている煌めきと、その発色の良さというのは、岩絵の具にしかだせないものだと思っているので、そこが一番の魅力かなと感じていますね。

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日本人が伝えてきた「美意識」を未来へつなげたい

—— 最後に、今後のチャレンジについて教えてください。

日本画って、ちょっと閉鎖的な世界なので、meceloのようなITのサービスに参加すること自体が、私にとってはかなりのチャレンジであったりします。

日本画を描いている人で、積極的にインターネットやWEBサービスを活用している方って、まだまだ多くはなくて。もくもくと描いてはギャラリーや百貨店で展示してという従来の活動とは対照的に、さまざまなジャンルの作家さんたちと一緒に、たくさんの方に向けて自分のことや作品のことを発信していく。未知な世界ながら、素晴らしいことだと感じているので、まずはこの新しい世界に飛び込んで、いろいろ挑戦していきたいと思っています。

meceloでの活動を通して、今よりも露出が増えて、いろんな方に作品を見てもらって、共感していただける方とつながって、そして少しでもたくさんの方に「ファインアートって面白いじゃん!」って思っていただけたら嬉しいですね。

—— たくさんの方とつながることができるのは、ITサービスのメリットのひとつですからね!

あと、私自身は他分野とのコラボレーションをいろいろとやってみたいと考えています。日本画の新しい側面ではないですけど、掛け軸として床の間に飾られるだけではない日本画を作っていきたいですね。

—— おっしゃるとおり、床の間に飾る以外のイメージをもっと広げていきたいですよね。でないと、せっかくの伝統が息絶えてしまいます。

いまや、和室や床の間をもたない家も増えてきている中で、どのようにして日本画を未来に残していくのか、これはかなり重要な問題だと認識しています。

床の間や屏風以外の道をさぐり、形は変われど、日本画がもっている豊かさや奥深さ、日本人が大切にしてきたアイデンティティが末永く残っていくようにしなければと感じています。

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—— 複雑な技法が必要ながら、それでも日本画が残っているということは、そこに日本人ならではの美が表現されているということでもありますよね。

日本画材には、この画材をわざわざ残してきた私たちの祖先の美意識が、たっぷりと詰め込まれていると感じています。

生の顔料を残すというのは、日本の刺身文化ともちょっと近いなと感じていて。無駄な手を入れずに、そのままいただくのがもっとも美味しいみたいな。そういった、日本人が良いと感じてきたこと、美しいと感じてきたこと、そういったものが「伝統」には凝縮されているので、未来へ残していきたいですよね。

—— ちょっと前の話になりますが、歌舞伎で代々使用してきた化粧品の製造が中止になったことで、役者さんたちがメーカーに販売再開をお願いしていたニュースがありました。日本画材でも、このようなことが起こったりしているのでしょうか?

既に起こっています。和紙を作る職人さんも、筆を作る職人さんもかなり減りました。最近では、膠(にかわ)を作るところも減ってしまったという話を聞いています。

私個人では、長く愛用していた和紙の職人の方がいなくなり、次の代に変わったのですが、やはり風合いが違うといいますか。そういったことはよくあります。

そもそも日本画自体がマイノリティなこともあって、もともとの画材の価格も高いので、今後職人さんが減って、品薄・価格高騰となると、本当に継続していくことが大変になっていきますね。

和紙、筆、膠(にかわ)、それらをつくる職人さんたちがいて、はじめて日本画の伝統を未来に残していけるわけじゃないですか。そういう職人さんたちのためにも、日本画、そして美術を日本でもっともっと盛り上げていきたいですね!

—— 「日本画」や「日本の伝統」について、熱く想いをお話くださった大嶋さん。日本画が好きという以上に、私たちの伝統を未来へつなぐ担い手としての覚悟も伝わってくる、そんなインタビューでした。本日はありがとうございました!

文:mecelo編集部 / 写真:せきと かおり

大嶋仁美さんインタビュー 前編はこちら

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Icon大嶋仁美

画家、アーティスト