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かわいいだけじゃない!ポップなビジュアルとテーマのアンバランスさこそが私の作品【後編】

ちょっととぼけたような表情が魅力的なブタの絵を描いている甲斐えるさん。後編では、かわいいブタの絵に隠された意外なテーマや、どのように作品を生み出されているのか、甲斐える作品の “真髄” に迫ります!

かわいいだけでは戦えない、自分らしさに気づいたイベント出展

—— “重い感情を絵に吐き出すこともある” とのことですが、具体的な絵のテーマなどを教えてもらえますか?

初めての個展のために描いた「本音の包み方」という作品でいうと、人間の中には、ドロドロっとした暗い部分もいっぱいあって、でもそういうドロドロっとした部分って、そのまま外に出すことはできないじゃないですか。じゃあ、「このドロドロっとした部分は、卵でくるっと包んで、オムライスにして。はいどうぞっ!」って。「こうやって、(暗い部分を)きれいに包み隠して出すんだったら、いいでしょ?」っていう、そういう作品です。

—— そんな意味があったんですね!かわいいブタの絵と、考えさせられるテーマとのギャップは面白いですね。このようにテーマと絵にギャップのある作品は多いんですか?

この「クセになっただけ 大丈夫」という作品では、まるでチャーシューみたいに身体中をひもでぐるぐる巻きにされて、口もチャックされているブタを描いたんですが、実はこれ、ブタが自分自身でひもを巻いて、口のチャックを閉めているんです。

自分で自分の身体の動きを止めて、何もしゃべれないようにして。身体の自由も、表現の自由も奪われている状態なんですけど、自分でやったことだから大丈夫だって。いつか解きたくなったら自分で解けるからって、このブタはそう思っていて。ただ今は癖になってしまっているだけだから、だから大丈夫だよって、そういうテーマで描いています。

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—— かわいいイメージとは裏腹に、本当に深いというか。考えさせられますね。

初期の頃は、テーマやタイトルを面白がってもらいたくて、その点はこだわって制作していました。最近は、ちょっと別のことにもチャレンジしてみようということで、昨年はハンドメイド作品(グッズ)を販売するイベントに初めて出展しました。

このイベントでは、絵を飾るのではなく、グッズを買ってもらうことが目的だったので、これまでのような、ちょっと考えさせるテーマとかは一切考えないで、ただただ “かわいいブタのグッズ” を作りました。わかりやすさを狙ったというか。ただ、それはなんだか、自分の中でちょっと逸れた感があって。

—— 逸れた感とは?

イベントのために作った作品は、もちろんどれも気に入っています。ただ、イベントに参加してみて、かわいいものを作れる人は、世の中にたくさんいるんだってことを実感して。だから、単にかわいいだけでは個性にならない、これだけでは勝負できないってことを痛感したんです。

これまで絵を描く時というのは、自分の中にあるドロドロっとしたものを消化するべく、自分の中の暗い部分を吐き出しながらやってきたところがあって、そこに自分らしさがあるんじゃないかと思っているんです。

見た目はポップな色合いでかわいいけれど、実はアンバランスさが隠れているんだよって。そこは失くさないようにしたい、そこは続けていきたい部分なんだなって、改めて認識しました。

—— なるほど。自分らしさを出して勝負したいと、改めて実感されたんですね。

例えば、「見てるほうが痛いだけ」という作品。タイトルの「痛い」は、悪口で「あいつ、イタイな〜」って言うときの「イタイ」なんですけど、意図としては「あいつ、イタイな〜」なんて言う人の方が「イタイ」んだよっていう。

私自身、人から言われた言葉をけっこう気にしてしまうタイプなので、人から何かネガティブなことを言われたときに「そんなこと、私には関係ない!」って思いたいっていう、そんな気持ちが現れている作品です。これを作ったときは、思わず「言ってやったぜ!」って感じで、気持ちが晴れ晴れしたのを覚えています(笑)。これが、私の作品なんです。

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日常のふとした言葉と絵がつながって、作品は生まれる

—— 甲斐さんご自身の経験や想いが、ダイレクトに作品につながっているんですね。テーマはどのように考えているんですか?

ふと思いついた言葉を書き留めておいて、それらの言葉やフレーズを、ぼんやり頭に思い浮かべながら絵を描くことが多いです。描いている途中で、この絵とこのタイトル(言葉)は結びつくかも!って、ピンとくることもあったり。

—— 書き溜めた言葉から連想していく感じ?

作品を作るぞ!というときは、まずは何も考えずに、鉛筆やペンでブタを大量に描きます。そのときに描き出されたブタのビジュアルと、描きたいなと思っている言葉とが上手くハマるときもありますし、逆に言葉から具体的なイメージが浮かんできた場合は、そのイメージをそのまま描くときもあります。

—— 言葉から具体的なイメージが浮かんできた作品で、印象に残っているものはありますか?

この「カゲグチのカゲグチ」は、先に言葉があって、タイトル先行の作品ですね。ブタが糸電話をしまくっている絵です。

これは、タイトルを思いついたきっかけもよく覚えています。「Aさんが陰であんなこと言ってた〜!」って、Aさんのいないところで言ってくる人がいて。それ、どっちも陰口だぞと。そこから、みんなが糸電話で陰口を言い合っていて、糸電話の糸も絡まりまくっていてっていう、めちゃくちゃなイメージが生まれました(笑)。

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誰が見ても理解できる、そんな作品を作っていきたい

—— 甲斐さんの作品は、一見イラスト的でもありますが、社会的なテーマが背景にあって、現代アート的な要素もありますね。

私にとっての現代アートって、めちゃめちゃおしゃれで、かっこよくて、洗練されたものっていうイメージ。なので、現代アートを見るのは好きですけど、自分が作っていくものは、それとは違うものなんだろうなと思っています。

作品では、現代アートの持つテーマ性は取り入れたいと思っていますが、「俺のアートだ!」みたいな感じにはしたくないなと(笑)。したくないというか、自分では恥ずかしくてできないだけですけど。

これはブタさんの絵ですよー!かわいいブタさんでしょ?って、誰が見てもブタの絵だってわかる、そんな見せ方をしていきたいです。

—— アートとかよくわかんない!って方でも見やすいように、敷居を下げたいと。

そうです。「この絵、わからんわ〜!」ってスルーされるより、「これはブタの絵だ!かわいいな〜!」って、立ち止まって、作品に近寄ってきてもらいたい。むずかしい意味とか背景の話はその後で、まずは絵の前で立ち止まって見て欲しいって思っています。

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甲斐えるさんの作品

—— 観る人たちが理解しやすい方法で、表現をしていきたいと。

はい。自分自身、ポップなものが好きだからかもしれませんけど。

小学生の頃からずっとKinKi Kidsさんが好きで、彼らのコンサートにはもう18年くらいずっと通っています。最近だと、ももクロちゃんも好きで。中でもあーりん推しです!漫画であれば『ONE PIECE』がずっと好き。

たまに「私は『ONE PIECE』が好きです」って言うと、「あなたも『ONE PIECE』が好きなの?みんな好きだもんね」って、ちょっと嫌味っぽく返されることがあって。そういう対応をされると、自分はそんな人にはなりたくないなって思います。自分が好きなものに対して、流行っているからとか、人気だからという理由で捻くれたくはないなって。

—— なるほど。好きなものに対しては、好きだという気持ちを大事にされたいと。

自分が「つくる側」になりたいなら、尚さら捻くれてはいけないと思っています。人気なものがあったら、その人気の秘密はいったい何なんだろう?って、興味をもって探るような人でありたいです。

家庭と仕事のストレスは、半々くらいがベストバランス

—— 現在は作家活動と並行して、お仕事もされていると伺いました。

はい。作家活動以外では、週3でWEBデザインの仕事をしています。

以前は、フルタイムでWEBデザインの会社に勤めていたのですが、制作時間を確保するために退職しました。退職後、一時期は作家活動のみに専念していたのですが、半年くらい前から再び働き始めました。

—— なぜ、また働こうと思ったのでしょう?

私の場合、負の感情から作品のテーマが生まれることが多いので、外的ストレスが極端に減ってしまうと言葉(テーマやタイトル候補となるフレーズ)が、浮かんでこなくなるんです。

家にこもっていると、テーマが家庭のことばかりになってしまいそうで、働いていなかったときは、テーマが偏ってしまうこと、狭くなってしまうことをすごく心配していました。でもまた働き始めたら、以前のように言葉が浮かんでくるようになりました。

やっぱり外に出て、人と関わって、多少なりともストレスを感じている方がいいんだなって思いました。働き始めたことで制作時間は少し減ってしまいましたけど。でも私の場合は、いくら時間があっても、家にこもっているだけでは全然描けなかったです。

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—— 今は家庭と仕事のストレスが半々くらいの割合?

はい、今は良いバランスでやっています(笑)。

—— よかったです(笑)。甲斐さんの作品って、描かれているのはブタなんですけど、テーマが身近な分、とても共感しやすいですよね。

ありがとうございます。最近では、自分が落ち込んでいると、描くブタもなぜか落ち込んでいたりしていて、だんだん自分とブタが一体化してきてます(笑)。

小さい頃からの夢だった「絵本作家」に、いま一度挑戦したい

—— 今後やってみたいこととして、「絵本」をあげられていますね。

はい。小さい頃、絵本作家になりたいと思っていたこともあって、今後は絵本作りもやっていきたいと考えています。今年の夏に、絵本展示のグループ展が開催されるんですが、有り難いことにお声がけいただいて、そちらに参加する予定です。

ブタと食べ物が登場する可愛らしい感じのものと、初期の頃の作品のような、ちょっと深読みできるようなものと、どちらも制作したいですね。

—— ブタたちが登場する絵本、とっても興味があります!

ありがとうございます。私の作品は、とくにタイトルが意味深なものが多いこともあって、絵を見てくださった方から、テーマをもとに絵本にしたらどうかとか、アニメで動いているブタが見たいとか、有り難いことにリクエストをいただくことがあって。

—— なるほど。いろんな方面へ展開できそうですね!

作品展示だけでなく、積極的にデザインやイラストのお仕事を受けていったり、絵本のコンペに応募したり。とくに、絵本制作につながるようなお仕事はどんどんやっていきたいです。

今後の目標は、まずは絵本を仕上げること。たくさん描くこと。そして、デザイナー、イラストレーターとしての「甲斐える」をしっかり広めていくことですね。

—— 小さい頃からの夢に向かって、日々着実に前進されている甲斐えるさん。絵本の完成が本当に楽しみですね。本日はありがとうございました!

文・写真:mecelo編集部

甲斐えるさんインタビュー 前編はこちら

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Icon甲斐える

ブタ絵描き / イラストレーター