09

大好きなものばかりが、作品には凝縮されているんです ー それが相手に一番伝わる方法だから【前編】

赤とピンクで彩られた部屋。ウサギの仮面を被った、ちょっとエロティックな乙女たち。「現実と夢の間(はざま)」をテーマに、独特な世界を表現しつづける有村佳奈さん。作品には、大好きなものが凝縮されているという有村さんに、表現へのこだわり、表現したい世界へのこだわりについて伺いました。

現実的な私が作家になるなんて、思ってもいなかった

—— 絵はいつ頃から描いているんですか?

小学生の頃によく漫画を描いていたので、それがスタートかなと思っています。それから高校に入るまで、漫画とか漫画タッチの絵はよく描いていました。高校で美術部に入って、そこで初めて漫画ではない絵(油絵)を描いて。今のテイストに近い絵を描くようになったのは、美大に入ってからですね。

—— 美大の専攻は絵画ではなく、デザイン?

はい。仕事に直結した方がいいなと思っていたんで(笑)。

—— なるほど、現実的ですね(笑)。

はい(笑)。やはり食べていくことを目的にしていたというか、就職も考えた上で、デザイン学科を選びました。単純にグラフィックデザインが好きだったというのもありますけど。

—— 専攻はデザインでも、ファインアート的な絵も描いていたんですか?

デザイン系の学部だったので、授業で絵を描く機会は少なかったです。でもやっぱり自分がやりたいのは絵だなって気づいてからは、時間を作っては、絵を描くようにしていました。

スタイルとしては、ドローイングが多かったです。あとは、スケッチブックに雑誌の切り抜きなどを貼り付けてコラージュにしたり、クレヨンで描いたり。思いついたときに、ササッとできるようなものですね。

学生時代は、表現すること自体が楽しかったので、絵に限らず、アート・アニメーションとか、興味のあることは何でもチャレンジしました。卒業制作では、杉本博司さんやアンドレアス・グルスキー、ドイツの現代アート写真から影響を受けていたこともあって、デザインではなく写真作品を作りました。好きな絵を描きながらも、そのときどきで自分の興味が向いたことは何でもやっていましたね。

有村佳奈さんの作品

—— 作家からの影響もかなり受けていたようですが、ご自身が作家になることは考えなかったんですか?

はい。大学の頃は、就職できる学部を選ぶくらいに現実的な人間でしたからね(笑)。作家になろうなんて考えたことなかったですね。というより、現実的な話にまで考えが進まなかったという方が正しいです。

—— 現実的な話にまで考えが進まなかった、というのは?

表現を続けていきたい、何かの研究を続けていきたいという気持ちは、学生の頃からずっとあったんですけど、実際に自分の表現活動や研究活動をどのように仕事につなげていくのか、そういった具体的なことを想像することができなかったんです。なので、漠然とデザイン系の会社に就職するんだろうなと思っていました。

—— 社会に出てから、作家になりたいと思うようになったんですか?

卒業してWEBデザインの仕事に就いたんですけど、仕事をするうちに、作家活動をもっとやっていきたいっていう気持ちが膨らんでいきました。

ただ当時は自分の中に、表現したい気持ちと同時に、表現することに対する自信の無さみたいなものが混在していて。自分の中に、確信的なものが無いというか。

でも、表現し続けていくことで、そういった自信や確信的なものというのは掴めるのかもしれないって思うようになったことと、やはり表現したいという気持ちがすごく強かったので、徐々にですが、活動するようになっていきました。

ファンの存在と受賞が、表現への確信をもたらしてくれた

—— 大きなきっかけがあったというよりは、続けていくうちに、徐々に自信が持てるようになっていったと。

ターニング・ポイント的なことは、ちょいちょいあって。自分がよいと思って作ったものが、ちゃんと人に伝わったなって実感できた機会が何度かあったんですけど。

—— ターニング・ポイントについて、具体的に教えてくれますか?

ひとつは、見てくれている人がいることを実感できたことです。2012年に「シブカル祭。」の「シブカル杯。」というコンペに出展して、渋谷PARCOで展示をしたことがあって。その2年後に個展を開いたんですけど、2年前のシブカル祭。で私の作品を見たことがきっかけで、個展にも足を運んでくれた女の子がいたんです。

当時は、今ほどSNSを活用していなかったので、フォロワー数とか、自分にファンがいることを実感できるものが何もなかったので、すごく感動しました。本当に嬉しかったです。

もうひとつは、自分がよいと思って作ったものが、きちんと認められたことです。自分の作品がどう評価されるのかを知るために、いろんなコンペに出展していたんですけど、2017年のACTアート大賞展(アートコンプレックスセンター主催)に出展した作品が、審査員特別賞に選出されたんです。

賞をいただいた作品は、自分でも手応えを感じていた作品だったので、自信を持って出展した作品が選ばれたと聞いたときは、本当に嬉しかったです。

「見てくれている人がいる」という実感と、「確信を持って制作した作品が評価された」という事実と、このふたつがこの先の表現における自信につながっていったと思っています。

—— 逆に、社会にでた経験が表現の自信につながるということはありましたか?

私にとって仕事の経験は、「表現」とは別のものの自信につながっていると思っています。具体的には、「社会の中でコミュニケーションをとること」のスキルが上がって、自信が持てるようになったこととか、「経済観念の基本を身につけること」ができたこととか。

美大って、表現に関する教育は充実しているんですけど、ではどうやったら創作活動で食べていけるのかといった、経済的なことを学べる環境は整っていなくて。恥ずかしながら、学生のときは自分でもその必要性を分かっていなかったですし(笑)。なので私個人は、一度は就職して、社会人として知っておくべきポイントを学ぶことは大切だと思っています。

夢と現実の間で ー 見えないものを感じる “新たな感覚” を求めて

—— なぜ「夢と現実の間(はざま)」を大テーマとして描いていこうと?

映画監督のデヴィッド・リンチの作品が好きなんですけど、彼の作品って、観ていて「え?これは夢???それとも現実に起こっていることなの?」って、不思議な感覚に陥ることがよくあって。その感覚が新鮮で面白くて、すごい衝撃を受けました。この自分が体験したような “新たな感覚” を、自分は描くことで作り出したいって思うようになったんですね。

じゃあ、“新たな感覚” って何だろう?って考えを巡らせた時に、自分の体験や記憶、思考を巡らせているときの脳内って、いろんな絵がごっちゃごちゃに入り混じっていて、すごいんだろうなって想像して。それをビジュアル化したら面白いなって思ったんです。

あとベースとして、実はものごとの間の部分こそが本質に近いのではないか?という感覚があって。要は、表に見えていることだけが全てではないし、見えていないところだけが全てでもない。じゃあ、その中間はどうなんだろう?って。絵を描くときも同じで、「現実」だけを描くよりも「夢と現実の間」を描く方が、自分自身の本質を表現できるのではないかと思っているところがあって。その “新たな感覚” と “間(はざま)” の2つが、表現をする上でのポイントになっていますね。

—— 夢や脳内といった、可視化できないビジュアルを描こうとされている。そのテーマで、あえて女性(乙女)をモチーフにされているのは?

もともと女性を描くことが好きなんです。自分自身、女性だからということもあると思います。あと、作品では自画像を描いているようなところもあって。なので、女性+自分自身の内面みたいなものがにじみ出てしまっているのかなって思っています。意識的にというよりは、意図せずにじみ出てしまったという方がしっくりきますね。

—— 内面がにじみ出ているとのことですが、作品からはホラーというか、「見てしまってもいいのかな?」って思ってしまうような怪しさ、恥じらい、そんな要素を感じました。

ホラーですよね(笑)。ネガティブなことばっかり考えていそうな作家だなぁって思われていそうですけど、私自身は全くホラーな要素はないですし、案外内心はけっこうポジティブだったりします(笑)。でもそこが、自分でも不思議だなって思うところでもありますね。

キラキラしたものより、ちょっと毒のあるものに惹かれるんですよ。その毒みたいなものが、ちょっとエロティックだったり、ちょっとホラー・テイストだったり、そういった表現につながっていくのかなって思います。内面もそうですけど、自分の好みが作品ににじみ出てしまっているんだと思います。

—— キラキラより、ちょっと毒のあるものが好き。毒に惹かれる理由はなんでしょう?

私にとっての「毒」というのは、“ネガティブな感情” を表現するひとつの手法であり、共感を生むポイントでもあるんですね。だから惹かれるんだと思います。

日々の生活の中で、ときどき「ネガティブな感情を抱く自分」に幻滅してしまうことがあります。どうして「キラキラした自分」ではいられないのか。そんな時に例えば、いつも元気に活躍するヒーローをみると、憧れを抱くと同時に「キラキラしていない自分」と対面することになり、精神的に辛くなります。

ですが、そのヒーローも家に帰ってから奥さんに「ほんとさー、もうこっちは限界なのに、みんな助けて助けてって言い過ぎだよー」なんて、人前では絶対に言わないようなセリフを毒づいていたら、「いつもキラキラしてる」と思っていたヒーローも「やっぱり苦労してるし、ネガティブな感情を抱くんだ。ヒーローも、辛い時は辛いんだね」って、なんだか安心します。

私自身、自分のネガティブな感情を「毒」という形で表現することで、浄化される部分があるんだなと思います。

作品制作では、偶然の発見を大事していきたい

—— 作品ごとのテーマやモチーフはどのように決めているのでしょう?

そもそも絵を描くときは、完全に下絵がバチッと決まった状態から描くことはなくて、絵の具と相談しながら絵を作っていく感じです。ちょっと説明は難しいんですけど。

テーマに関しては、そのときそのときに自分が何に興味があったかとか、何に衝撃を受けたかというところをポイントに作り出します。

最初からこのコンセプトでいこう!って、ひとつに決めるのではなくて。それこそインスタに上げた写真にハッシュタグを付けていく感じで、いろんなキーワードをたくさん集めて、そこから構築していくような感じです。

—— ハッシュタグ。なるほど。

例えば、#赤色、#ピンク色、#花、#友だちと◯◯した、とか、とにかくキーワードをたくさん出して、ブレイン・ストーミングする感じ。そこから出てきたイメージをラフ・スケッチしたり、写真で撮ったり、文章にしたり、ドローイングしてみたり、何でもいいからとにかくアウトプットしていく。そのうちに、この構図で描いていきたいなとか、そういうのが出てくるんです。そうやってだんだんと形になっていく感じです。

—— 脳内会議ですね。

そうです(笑)。常に脳内会議しています。毎日何かしら考える習慣をつくると、アイディアが出てきやすくなるんです。あと、人と会話してるときに、自分では気づかないポイントみたいなものが相手から出てくることもあるので、参考にしたりしますね。

最初はバラバラに散らばっていたものが、絵を描いていく過程でまとまっていく。そこにタイトルを付けて、最後に文章を書いて、そのときにすべてが合致する、みたいな感じです。

—— 脳内会議で方向性は決まると、あとはもうスラスラ進んでいく感じですか?

いいえ。きっちりした下書きはせず、絵の具と相談しながら進めていくので、自分では考えてもみなかった色の組み合わせに出会う、なんてこともしばしばで。その時にしか生まれない、偶然の発見みたいなものは大事にしています。

私は、思った通りにものごとが進むよりも、想定外のことが起こった方が、想像した以上の結果を生み出せると思っていて。意外性があった方が、“新しい感覚” も体験できますし。たまに、下絵をきっちり準備した絵も描きますけど、私自身は、偶然の産物みたいなものに出会いたいって、いつも思っています。なので、新発見に立ち会えた瞬間は、キタ━!!って、ものすごく興奮しちゃいますね(笑)。

文:mecelo編集部 / 写真:村松 成美

後編では、有村さんが同志として応援しているアイドルから、子供の頃の経験から身についた術、そして今後のチャレンジについて、多彩なテーマでお話いただきます!

有村佳奈さんインタビュー 後編はこちら

パートナーを募集中ですあなたも、有村佳奈さんの創作活動を支援しませんか? パートナープランごとに素敵なリターンが用意されています。
Icon有村佳奈

画家/ARTIST