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光と影、多様性と普遍性、強さと弱さ ー 相反する要素をテーマに “人間” を表現し続けていきたい【後編】

「人間という存在そのもの」をテーマに、流れるような美しい作品を描きつづけるKayo Nomuraさん。後編では、描き始めてからどんどん変化しているという作風について、そして自らもとても“自分らしい”アプローチだと捉えている「ダイアローグ・ドローイング ー 対話から生まれる描画」について、詳しくお話しいただきます。

“固執” や “力み” がなくなり、より自由な表現へ

—— ちょっと話は戻りますが、ニューヨーク滞在をきっかけに、作風がガラリと変わっていったのでしょうか?

ニューヨーク滞在中に、劇的に変わったということはありません。たった2週間でしたし。ただ、滞在をきっかけに徐々に徐々に変わっていったと思っています。

はっきりと動物だと分かる絵だったものが、徐々に動物色が薄まっていって、ちょっと抽象的な動物のようで動物ではない、そんな絵に変わっていって、そこからまたどんどん変化して、植物的な要素がより強くなっていきました。変化するに従って、カタチというものがどんどん崩れていって、使う画材もアクリル絵の具から水彩やインク、といった流動性のある、水っぽいものを好むようになって、そして現在のカタチになりました。

—— 自然と作風が変化していった感じですか?

大きなきっかけとしては、バスキアがアトリエとして住んでいた跡地にできた会員制のレストラン・バーのオーナーさんに絵を見せに行ったところ、私の絵は「ニューヨークではまだ通用しない絵だ」と言われたことでしょうか。そこでは定期的に写真や絵を展示していて、そのオーナーさんが展示する作品を決めていました。

「まだ」と言われたことをきっかけに、「自分の表現って何だろう?」って、ニューヨーク滞在中も、そして帰国してからもずっと模索し続けました。

そして、その年の暮れに「来年もニューヨークに行こうと思っています。だめ元で聞きますが、その時に展示させていただけませんか?」とオーナーさんに再アタックしました。実はそのオーナーさん、ずっと私の作品をインスタグラムで見てくださっていて、「この半年でずいぶんと絵が成長したように感じる。やってみようか!」と。そして、翌2016年の夏にニューヨークで展示することが実現しました。

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—— 再度チャレンジされたことも素晴らしいですが、印象的だったのが、アクリルという堅くて強い印象のある画材から、水彩やインクといった、流れるような柔らかい印象のある画材へシフトされていったこと。

おそらく、最初はすごく力んでいたんだと思います。あと、動物を描くのであればちゃんと骨格を意識して描かないといけないと思っていて。正確なカタチだとかモノの構成だとかをすごく気にしながら色を重ねていました。今思えば、当時は「足していく」表現をしていたんだなと。

そこから描いていくに連れて、もっといろいろ試してみてもいいんじゃない?って思うようになったんです。世の中にはいろんな種類の画材があるのに、アクリルだけに固執する必要はないんじゃないの?って。

—— だんだんと固執だったり、力みだったりがなくなっていったんですね。

そうですね。あと、私は旅するのが好きで、旅先でささっと描きたいって思ったときに、アクリル絵の具だとけっこう手間なんです。インクやペン、色鉛筆だと、肩肘張らずにささっと描くことができる。

また、一重にインクといってもいろんな種類があって、混ぜることでまた違った表現を楽しめるんですね。混ぜる水の量の違いでも、色合いはまた変化します。そういった偶発性みたいなものがすごく面白くて。自分が意図したように描く部分と、偶発的に描かれる部分と、その両方を信頼する。以前のようにがむしゃらになって描くのではなく、気持ちにゆとりを持って描けるようになった気がしています。

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“立ち帰れる場所”となる絵を届ける ー ダイアローグ・ドローイング

—— 偶発性といえば、Kayoさんが独自にやられている「ダイアローグ・ドローイング」は、まさに偶発性を信頼し、楽しむからこそ生まれる作品だなと思いました。

そうですね。目の前の方と一時間じっくりお話しながら、その会話から出てきた言葉を軸に一枚の絵を描いていく。まさに偶発性を楽しむ作品ですね。そして、何よりもお客さんといっしょになって、一枚の絵を作っていく感覚がすごく楽しいんです。描いているのは私なんですけど、いただいた言葉をつかって、一緒にひとつの作品をつくり上げていく。そういう作品です。

—— そもそもは、どんな経緯で「ダイアローグ・ドローイング」は誕生したのでしょう?

2017年の2月に東京で個展をする機会があったのですが、そのギャラリーでは作家が毎日在廊していないといけなくて。でも季節は真冬。とくに平日の午前中なんて、ほとんどお客さんがいらっしゃらない状態でした。

でもお客さんが少ない分、逆に来られた方とはじっくりお話できるんじゃないか。せっかくお話するのであれば、その話をモチーフに絵を描いてみたら面白いんじゃないか。そして、それを差し上げたら、その方にとって何か記念になるんじゃないか。じゃあ、やってみようと。

人間って、すごく真剣に話をし出すと思いもよらない言葉や記憶がでてくるものじゃないですか。それらをじっくり聞いて引き出すことができて、さらに絵にすることができるって、まさに自分にぴったりの内容だなって思ったんです。

—— でも相手が目の前にいて、しかも自分からもお話しながら(質問もしながら)絵を描いていくって、けっこう大変なことじゃないですか?

私も始める前までは、本当にできるのかな?って心配してました。でもいざやってみると、すごく楽しくて、集中して話して、描いて、あっという間に1時間経っていて(笑)。

何より嬉しいのが、その方が大切にされている言葉から生まれた絵ということで、絵がその方にとって “立ち帰れる場所” になっていると言ってくださる方が多いこと。

先日、初めてお母さんになられたという方がいらっしゃって。初めてのお子さんということで不安があること、と同時に育てていくことへの責任をしっかりと感じていること、そして家族への変わらない愛に溢れていること等をお話されて、私はそれらを絵に落とし込んでいったんです。

後日感想をいただいて、日常の中で子供や家族に対して苛立って、怒ってしまうこともあるけれど、そんなときには食卓に飾ったその絵をみて、初心を思い出されるそうです。怒ってしまったけど、自分はちゃんと家族を愛しているんだって、絵を見ることで純粋な気持ちに立ち返るそうです。

それを聞いて、絵ってすごいなって。言葉の力にはすごいものがあると常々思っているんですが、非言語的なものでも、人に何かを与えることができるんだって。そこで自分のやっていることに対して確信を持てたというか、改めて絵ってすごいなって感じました。

Kayo Nomuraさんの作品

現在も未来も、いつまでも変わり続けていく自分でありたい

—— 作品でも、ダイアローグ・ドローイングでも、Kayoさんは変化というものをとても素直に受け入れて、またそれを楽しんでいる印象を受けました。

あまり過去に固執したくないとは思っています。たとえば、動物を描いていたからといって、この先もずっと動物を描き続けなければならないとか。現在の制作スタイルも、もしかしたら来年はやっていないかもしれません。

私の創作の根源である「人間への興味・関心を表現していく」ことは、この先もずっと変わらないと思います。でもその表現方法については、こうでなくてはならない!というものはないですし、いろんなことを試してみることもすごく大事なことだと思っています。

動物を描いていた頃のほうが良かったと言ってくださる方も、もちろんいます。でもそれはそれとして、今の私はもっと前に進んでいきたいですし、未来の私もそうであって欲しい。どんどん変わりつづけていく、そんな自分に自分が一番期待しているんです。

—— 「私には英語しかない!」と固執されていたKayoさんの言葉とは思えないですね(笑)。

人間って、不思議ですよね(笑)。

でも、変化できるか否かって、結局は自分のことを信頼できているかどうかだと思っています。英語しかないと思っていたときは、すごく自分に自信がなくて、英語にしがみつくことでしか、自分をうまく保てなかったんだと思います。

今でも、ものごとが思い通りに進むことはありません。生きていれば、絵を描いていれば、いろんなことはあります。でも良いときがあって、苦しいときもあるというのは自然の原理だと思いますし、春夏秋冬があることで季節を楽しむことができるように、いろんなことが起こるから人生は楽しいんだって、そういう風に捉えられるようになりましたね。

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表現を通して、たくさんの人々と関わり合っていきたい

—— 今後の活動について教えてください。

大きい作品には挑戦したいですね。実は大きい作品を描くことに対しては、まだ苦手意識があるんです。だからこそ、壁画とか大きな画面に大きな絵を描くことはやってみたいです。

あとは、レストランやホテルなどの商業施設での展示。ギャラリーって、絵に興味のない方にとっては、なかなか縁遠い場所じゃないですか。なので、いろんな方が行き交う場所の壁画や商業施設で展示することで、いろんな方に見ていただけるのかなと思っています。

そして、絵と同じくらい私にとって大切な「言葉」をつかって「画集 × 詩集本」を作りたいですね。絵に言葉を添えたブックレットを、2016年のニューヨークでの展示用に作ったことがあったんですが、それがとても好評だったんです。そのブックレットはとても簡易的な作りだったので、つぎは本格的な本を制作したいと考えています。

—— ダイアローグ・ドローイングのほうはいかがですか?

ダイアローグ・ドローイングについては、海外でもやってみたいと思っています。いろんな国の方と対話したら、それぞれに何か違いのようなものが出てくるのかなとか(笑)。今は日本だけなので、世界各地で開催して、皆さんにとっての「立ち帰れる場所」をいっしょに作っていきたいですね。

—— ご自身のよい経験もつらい経験も、その両方があったからこそ今の私がいる。実体験をもって、そのメッセージを熱くお話くださったKayo Nomuraさん。アートと対話にフォーカスした「ダイアローグ・ドローイング」をはじめ、従来のアート表現にとどまらない、人とのコミュニケーションを介して生まれるKayoさんのアートの今後が楽しみです!本日はありがとうございました!

文・写真:mecelo編集部

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