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“偶然” を楽しむ私が表現したいのは、「自分で描いているけど、自分では描いていない絵」【前編】

鮮やかな色が目を引く植物を描く坂口香南子さん。インタビュー前編では、創作活動を始められたきっかけ、“偶然” が好きだという坂口さんのこだわりからユニークな制作工程についてお話しいただきました。

「自分の生き方」について考えた結果、通い始めたアートスクール

—— いつ頃から、創作活動を始められたんですか?

小さい頃は、絵を描いたり、何かを作ったりすることは好きでしたが、中学以降は次第に絵を描くこともなくなり、大学卒業後は、絵やアートとはまったく関係のない会社で働いていました。

27〜28歳の頃、これからの「自分の生き方」について考えるようになり、毎日のように会社帰りに本屋に立ち寄っては、自分の好きなことを探していました。

最終的に、子どもの頃に好きだった「絵本」にたどり着いて、大阪にあるアートスクールの絵本コースへ週末だけ通うようになったのが、また絵を描き出すことになったきっかけです。

—— 「自分の生き方」について考えるようになったとのことですが、何かきっかけがあったのでしょうか?

27歳のときに突然父を亡くして。気持ちのやり場がなくどうすることもできなかったのですが、下を向いて生きていても父も嬉しくないだろうと、父の分まで生きるしかないと考えるようになったんです。

それからは、人生観がガラっと変わりました。自分の人生も突如として終わってしまうことがあるんだと実感できるようになってからは、 “時間” がものすごく貴重なものに思えてきたんです。当時は独身で、体も健康で、どんなことでもできるときに、生活の為だけに心をなくして働いているのがもったいなさ過ぎるって。

それでアートスクールに通い始めたり、興味のあった手染めの手ぬぐい屋さんに転職したりと、自分の好きなことをするようになったんです。

—— 貴重だからこそ、本当に好きなことに時間を使いたいと。そして、自分の好きなものとして、「絵本」にたどり着きます。なぜ「絵本」だったのでしょう?

子どもの頃は、絵本がすごく好きだったようで、よく読んでいたみたいなんです。大きくなるにつれ、そのことをすっかり忘れてしまっていたんですが、心のどこかにその頃の記憶が残っていたのか、本屋に通っているうちに、ふと絵本が好きだった当時の感覚が戻ってきました。

いつからか、よく絵本コーナーに足が向くようになって、そこでたくさんの絵本に触れるうちに、小さい頃の記憶や感覚が戻ってきたんだと思います。

—— 「絵本」をきっかけに、アートスクールに通い始めます。入学された時点で、将来は絵の仕事をしたいと考えていたんですか?

入学の時点で、そこまで具体的には考えていませんでした。

久しぶりに何かを描くことだけに没頭したり、先生の話を聞いたりする時間自体がすごく楽しくて。ここでの学びをどう活かすのか、将来どうなりたいのか、そういったことを考える以前に、ただただ絵を描けることが楽しくて、おかげでどんどん描くことにハマっていきました。

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自分で描いているけど、自分では描いていない絵を描きたい

—— 坂口さんの作品には、植物をテーマにされたものが多いですね。

もともと植物のもつ色や形状に面白さを感じていて、興味があります。

私の場合、「植物を描くぞ!」と思いながら描いているのではなく、描き始めたら、いつの間にか植物になっていたという感じなんです。事前に何を描くのかを決めないで描き始めることは多いので。

—— 事前に、何を描くのか決めないんですか?

自由に描けるときは、決めないですね。

私の描き方は、ちょっと変わっていて。絵の具のチューブから直接、紙の上に絵の具をちょんちょんと絞り出して、その絵の具でできた点々を水で広げながら見えてきたものを形にしていきます。

色を広げていく過程で、だんだんと形づくられていくんですが、それが植物になることが多いですね。自然と、自分の好きなものを選んで描いているのかもしれません。

—— とてもユニークな描き方ですね!

はい。水彩絵の具を使っているんですが、割りと “こってり” と塗りたい派なので、自分好みのこってり感が表現できる方法として、このやり方にたどり着きました。

—— 何も決めずに描くことの、坂口さんなりのこだわりは何なのでしょう? どんな良さがあると感じているんですか?

“自分で描いているんだけど、自分では描いていない” みたいな絵を描きたいんです。なるべく意図しないで描きたいんですよね。

あとは、絵に限らず、偶然に任せるということが好きなんです。そのほうが面白いじゃないですか(笑)。

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「自分で決めないこと」で、「想定外」を楽しむ

—— 例えば、どんなことを “偶然に任せて” いるんですか?

ご飯を炊く時のお水の量とか。だいたいで合わせて、少しくらい多かったり少なかったりしたとしても、「これが今日の水加減だ」って、それで炊いちゃいます(笑)。毎日まったく同じにするよりも、その日その日の「偶然」に任せるのが好きなんです。

絵を描くときも、手元をいっさい見ずに絵の具に手を伸ばして、偶然 指に触れた色を使ったりします。あえて、「自分で決めない」ことで想定外の色や配色が生まれるのが面白いんです。

—— 偶然に任せることで、失敗してしまうことはないんですか?

たくさん失敗します(笑)。

たくさんの失敗の中から、奇跡的にすごく良い作品が生まれることがあるので、それらを「作品」として発表しています。すごく効率は悪いんですけど、でも悪い分、良いものができ上がったときの感動はすごく大きいですね。

—— さまざまな制約なしに、自由に描きたいんですね。

制約なしに自由に描くのとは、実はちょっと違います。

一見、ゼロから作り出しているように聞こえるかもしれませんが、最初に絵の具をランダムに紙の上に置いてしまうことで、自分の中ではある意味、「制約」みたいなものを作っていると思っているんですね。

そもそも私は、何もないところから何かを作り上げていくことが得意な人ではないので...。

—— なるほど。もうここには赤色を置いてしまったので、ここは赤色以外にはなりませんよって、そういった「制約」を自ら作るんですね。

はい、そんな感じです(笑)。

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坂口香南子さんの作品

緊張が解けた瞬間に生まれた、“私らしい” 描き方

—— このユニークな描き方は、いったいどのようにして生まれたのでしょう?

誕生したきっかけは、とあるイベント中に描いた作品です。

ライブペインティングをしていんですが、描いている途中でちょっと行き詰まってしまって。それで休憩も兼ねて、ほかの作家さんたちのブースにお邪魔して、他愛のないおしゃべりをしたり、作品を見せてもらったりしたんですね。

そんな風にちょっと休憩して戻ってきたら、すごく気持ちが楽になっていたというか、張り詰めていたものがいい感じに緩んだというか、そのおかげで、まるで「遊んでいるような感覚」で描けるようになったんです。そのときに、現在のスタイルの原型のような、たくさんの点を描いてから、それらをつなげていくという方法で初めて描きました。

後日、この作品をコンペに出展したところ、なんと入選しまして。そういう意味でも、とても良いきっかけをもらった絵でした。

—— 気分転換したことで、緊張がいい感じに解けたんですね。

ちゃんとしたものを描かなければという、気負いのようなものがあったんだと思います。それが、一旦休憩を入れたことによって、いい感じに緩んで、楽な気持ちでまた描き出したら、良いものができたということなんだと思います。

—— 肩の力が抜けたことで、坂口さん本来の表現ができたのかもしれませんね。

そうだと思います。

文:mecelo編集部 / 写真:笹木 祐美

後編では、ずっと苦手だと思い込んでいた「タイトル付け」から得られたという気づき、そして今後のチャレンジについてお話しいただきます。

坂口香南子さんインタビュー 後編はこちら

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Icon坂口香南子

作家