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外からの刺激ばかりを求めていた僕が、自分の内側に目を向けたことで取り戻した “自分らしい生き方”【前編】

まるで “心の中” を描いたような、独特の抽象画を描く Shizuki Kagawaさん。インタビュー前編では、Kagawaさんが創作活動を始められたきっかけから、画家を目指すまでの経緯、そしてご自身の性別を変えられた話についてお伺いしました。

体調を崩したことで、ようやく向き合った “内なる声”

—— いつ頃から、どんなきっかけで創作活動を始められたんですか?

本格的に絵を描き始めたのが2015年頃で、きっかけは、ひどく体調を崩したことでした。そもそも、体調を崩した原因というのが、自分の内側からの声を、長年にわたって無視し続けていたからなんです。ずっと内側からの声に耳をふさいでは、適当に過ごして、自分らしくない生き方をしていたせいで、ついに身体を壊すまでに至ってしまったんです。

「絵を描きたい、自分を表現したい」って、本当はそういう気持ちで溢れていたにも関わらず、それを無視して、聞こえない振りをして、「いや、自分はもっとお金を稼ぎたいんだ!」って、本当の気持ちとは裏腹なことばかりやって。

そうやって無視し続けていたら、だんだんと身体の調子が悪くなって、人生も上手くいかなくなって、一時は寝たきりという最悪の状態にまでなってしまったこともありました。

—— 体調を崩される以前に、絵を描いていたことはあったんですか?

実は、大学では美術教育を受けていました。専攻は油絵で、部活は写真部に在籍していました。でも大学3年生のときに中退してしまいまして。なので、本格的に描いていたというわけではありません。

—— なぜ大学を中退してしまったのでしょう?

当時は、学習塾でアルバイトをしていたのですが、その仕事があまりにも楽しかったんです。おかげで、学業の方はどんどん疎かになってしまって、絵に関しても教科書から外れないように描くことだけをやっていたら、当然面白くなくなってしまうわけで。いつしか絵を描くことが苦痛になってしまって、それで学校を辞めました。

その後は、好奇心の赴くままにいろんな仕事を転々としていましたが、絵を描くことだけはしなかったです。

—— 体調を崩したことから、再び絵を描き始めます。具体的には、どんなきっかけがあったのでしょうか?

幸い、身体は徐々に回復していったのですが、脳の方にちょっと問題が残ってしまいました。ものごとを段取りよく対処できなかったり、記憶力が前より乏しくなったのを感じて診てもらったところ、アルツハイマー病を患っている人と脳の血流量が同じだと診断されました。

これは、やばいなと。どうにかして回復させる方法はないものかと、片っ端から調べてはいろんなことを試していくうちに、気がついたら創作することに意識が向くようになっていました。

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自分の内側に意識を向けることで、取り戻した創造性

—— 創作することで、脳の調子も良くなっていったということでしょうか?

脳の血流が減ってしまったことで、できないことがすごく増えました。ガスの火を付けっぱなしにしてしまったり、人と話すことが困難になってしまったり。それで思い切って、“今できないことをやるのは止めよう” って、あきらめることにしたんです。できることだけをやっていこうって。

幸いにも、当時はすでにパソコンとインターネットさえあれば、自宅で仕事ができる時代になっていたので、オンラインで仕事を受けては、何とか生きていけるだけの収入は獲得していました。

できる仕事を続けていくうちに、だんだんと気力が戻ってきたんでしょうね。そのうちに、今度は「できること」だけじゃなくて、「やりたいこと」もやってみようって、そう思うように心が変化していきました。

じゃあ、僕のやりたいことって何?って考えてみたら、絵を描くことだったんです。

—— 何十年か振りに絵筆を握られるわけですが、比較的スムーズに描けたのでしょうか?

いいえ。描きたいと思ってる割には、最初は全然描けませんでした。脳の中の、絵を描く機能が壊れてしまったかのように、何をどう描いていいのか全くわからない。一筆めがどうしても描けないんです。こうやって描くのは間違いなんじゃないかとか、なんか変なものを描いてしまうんじゃないかとか、いろんな考えが錯綜して。当時は、描くことがすごく怖かったですね。

普段まったく絵を描かない大人に「ここに絵を描いてください」って、突然お願いしたら、「え!マジ?」みたいな反応をされるじゃないですか。その感覚に近いと思います。失敗したくないし、失敗したら恥ずかしくて、怖くてできないみたいな。

—— そこからどのように、“自分らしく描くこと” を取り戻されていったんですか?

どうやったら描けるようになるのか悩んでいたときに、ジュリア・キャメロンさんの『ずっとやりたかったことを、やりなさい。』という本に出会います。その本に書かれていた、創造性を取り戻すためのトレーニングを試してみたところ、気がついたら絵が描けるようになっていました。

また、本に書かれていた “創造性というのは、自分の外側を探し回るのではなく、自分の内側の深い部分に潜っていく行為だ” という言葉がすごく刺さりました 。それまでの自分は、ずっと外ばかりに意識を向けて、探し回っていたんですよね。学校を辞めてからも、あっちこっちウロウロして(笑)。でも結局、何も見つからなかった。

あと「芸術」って、もっと日常の暮らしとはかけ離れたものだって、ずっと思い込んでいたんですけど、実はそうではなくて。芸術こそ、日常の延長にあるものなんだということに、この本をきっかけに気がついたんです。

日常を丁寧に暮らす、つまり、十分な睡眠を取って、適度に身体を動かして、おいしい物を食べる。そんな風に自分の欲求を満たしてあげることで、自然と内側に眠っていた創造性を活性化させることができるようになります。

僕も日常を丁寧におくることを意識するようになってからは、創作活動が捗るようになりましたね。

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Shizuki Kagawaさんの作品

行動したことで気づけた “自分に一番合っていること”

—— 当初はリハビリの一貫として始めた創作活動でしたが、徐々にその活動範囲を広げていきます。

脳のおかげで、外で普通に働くことができなくなって、そうしたら、生活費はどうするんだ?ってことになりますよね。

ここでも幸いなことに、当時はまさにハンドメイドブームが到来する、直前のタイミングでした。ちょうどブームに乗っかれたこともあって、オリジナル・デザインのスマートフォン・ケースやグッズは、そこそこ成功しました。何よりも、自分が作ったものを買ってもらえるということがすごく嬉しくて、そのうちに、グッズだけでなく原画も販売するようになりました。

実は、グッズだけを売っていた頃は、自分のことを「画家」とは名乗っていませんでした。なんだか恥ずかしくて(笑)。それで試しに、自分は「画家」と名乗ってもいいのかどうかを確認する目的で、公募展に応募してみたんです。そうしたら入選して。すごい嬉しかったですね。その入選をきっかけに、グループ展などにも呼んでもらえるようになって、「画家」としての活動も少しずつ広がっていきました。

—— グッズ販売を始めた当初、心のどこかで「画家になるぞ」という思いはあったのでしょうか?

まずは生活費を稼がなくてはという考えの方が大きかったですね。当時は、できることも今より少なかったですし、他に収入を得るアイディアもありませんでしたから。

きっかけこそ、お金を稼ぐためではあったものの、いざ始めてみたら、自分には絵を描くことが一番合っているんだなということがよくわかりました。

—— どんなところで、それを感じたんですか?

当時は作品に対して、いいね!と言ってくれる人も、逆に文句を言ってくる人も周りにはいなかったので、自分で制作したものに対して全く自信が持てていなかったんです。自分はすごくかわいいと思いながら制作しているけど、でも他の人から見たらどうなの?って。

でも実際に販売してみたら、お金を出して買ってくださる人がいて、かわいいと言ってくださる人がたくさんいて。自分がいいなと思ったものに対して、賛同してくれる人がいる、共感してくれる人がいる、そのことがやっぱり、ものすごく嬉しいんですよね。

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僕は相手の性別よりも、相手の内面を見て理解したい

—— もともと戸籍上の性別は女性だったそうですが、男性に変わられたのは絵を描くようになってからですか?

そうです。日本だと、戸籍上の性別をどちらかに決めておかないと大変じゃないですか(笑)。銀行にしても、身分証明とかにしても。

僕の場合は、絵を描くようになった時点で、もう10年近くホルモン治療を行っていたこともあって、見た目がほぼ男性だったんです。なので、戸籍を女性のままにしておくと、怪しまれることのほうが多くなってしまって(笑)。それで、創作活動を開始したタイミングで戸籍の性別も男性に変更しました。

—— 以前からホルモン治療をされていたということは、もともと自分は男性だという意識をもっていたんですか?

そうですね。でも正直、男性か女性かって、そこまで気にしなくてもいいんじゃない?というのが、僕の今のスタンスです。

僕自身、相手に対して、その人が男性か女性かどうかということより、その人のエネルギーというか、その人の内面を見たいと思う人なので。でもだからといって、性別や外見なんてどうでもいいんだと思っているわけでもありません。

ただ、僕自身は、創作活動をすすめる過程で、そこまで性別にこだわる必要があるのだろうか?ないよね?って、思うように変わっていったんです。だから戸籍の性別も、単に見た目の近い方にしておけばいいかなくらいの気持ちで変更しました。

—— 強いこだわりがあってというより、逆にどちらでもいいじゃないというスタンスからの性別変更だったんですね。

そうです、そのとおりです。なので、僕の場合は、見た目の性別と内面の性別との違いについて、すごく葛藤したというよりは、ほとんど葛藤することなく、創作を通じて今のベストな状態になったということなんです。

文:mecelo編集部 / 写真:Muta Aya

後編では、創作のコンセプトから、「日々の生活すべてが創作活動だ」と話すKagawaさんの真意、そして今後のチャレンジについてお話しいただきます。

Shizuki Kagawaさんインタビュー 後編はこちら

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