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自分のアートを追求しつづけ、たどり着いた先にあったのは、大好きな “音楽” だった【後編】

「線譜」と呼ばれる繊細で精密なペン画を描く、武 盾一郎さん。インタビュー後編では、現在の作品「線譜」が誕生したきっかけから、音楽を描くことについて、そして今後のチャレンジについてお話しいただきます。

本当に描きたかったものは「音楽」だった

—— 以前は情熱的で尖っている印象がありましたが、現在の作品からはとても繊細な印象を受けます。どんな変化があったのでしょうか?

以前は、社会とか街とか、そういったもの全部を含めて作品であり、僕自身もその作品の中に含まれていました。新宿という街も、そこで暮らすホームレスたちも、ダンボールハウスも、街の雰囲気も、全部が僕の作品なんだって、そういう風にアートを捉えていました。

それが阪神淡路大震災後あたりから、自分を作品から切り離して、かつ作品の中に自分の世界観をつめこみたいと考えるようになっていきました。

—— 外に広がっていた作品を、中に閉じ込めようとされるようになったんですね。

いろんなものを “作品の中に閉じ込めること” に猛烈に関心が向くようになったことが、現在の作品を描くようになったきっかけです。

一生懸命、自分の世界を閉じ込めたいって思いながらドローイングするうちに、はたと「俺が描いているものって、絵じゃないな。音楽だな」って気づいたんです。

僕は、目に見える対象を描きたいのではなく、 “音楽を画面に閉じ込めたい” んだということが分かってからは、作品を「線譜」と呼ぶようになりました。

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—— 面白いですね。どんなきっかけがあって、「描きたいのは音楽なんだ」と気づいたんですか?

阪神淡路大震災後は気持ちがひどく落ち込んで、いろんなことを面倒に思うようになってしまっていて。でも約束した以上は、絵を描くことだけは何とかして続けようとした時に、無気力な状態でも唯一あつかえたのがボールペンでした。

大きな紙に描くことも億劫だったので、手近にあった吸い殻にボールペンで絵を描く。それを何年か続けていくうちに、もうこれでいいやって思うようになっちゃったんですね(笑)。煙草なら毎日吸うし、吸い殻に描くくらいなら毎日欠かさずできて、約束は守れるしって。

でも続けていくうちに、いま自分がやっていることって、ドローイングとか線画じゃないかって気づいたんです。それから少しずつ元気になって、次第に大きな紙にも描けるようになって、あるときワァーって紙に線を描いてたら音楽に近いものを感じたんです。

そのとき、自分がこれまで描いてきたものも全部音楽だったんだなということに気がついて。それまでは国家とか社会問題とかいろいろ尖ったことを標的にしてやってきたけど、僕が本当に描きたかったものって、僕が大好きな音楽だったんだなって。

おそらくは、無気力な状態になったことで、かえって本当の欲求に気づきやすくなったんでしょうね。

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この宇宙は、実は音楽なんじゃないかって思ってる

—— バンドを解散されてからも、音楽活動は続けていたんですか?

何度かバンドを組むことはありましたけど、続きませんでした。音楽は好きなんだけど、音楽を表現する能力はそこまでではないということが分かってしまったんですね。

音楽は愛おしいものではあるけれど、自らが表現するものではないと思っていたんですが、今こうやって音楽を描いている。楽器演奏とは違ったかたちで、実はずっと音楽を続けているのかもしれないですね。

—— 武さんは、どんな音楽を描いているんですか?

環境音やノイズ、そういったものに近い感じでしょうか。

僕も完ぺきに理解しているわけではないんですけど、超弦理論ってあるじゃないですか。この宇宙というのは、極微小な震える弦であるという理論、仮説。

震える弦のようなものでこの宇宙ができているのだとしたら、それってこの宇宙自体がひとつの音楽なんじゃないかって思ったんですよね。僕は、この仮説はひょっとしたら本当なんじゃないかって思ってるんです。この宇宙は本当は音楽なんじゃないかって。

—— 面白いですね。しかも武さんの関心が、国家や社会からどんどんご自身の内側に向かっていっているように感じます。

理想としては、内側から突き抜けて外側に行っちゃいたいくらいなんですけど(笑)。内宇宙のうんと深くまで下りていけば、ひょっとしたら外宇宙とつながっているんじゃないかみたいなやつ。

武 盾一郎さんの作品

自分の作品が、悩める人たちの役に立ったら嬉しい

—— 以前のように、社会問題などをテーマに描くこともあるんですか?

社会問題を表現するのは、アートよりも言語のほうが得意なんじゃないかなって、僕は最近思うんですよ。

理屈で考えてもよく分からないものを表現するところに、アートの面白さがあると思っていて。なので、具体的な社会問題を扱うことは、今はあえてしていないです。

とはいえ、僕の表現の中に、すでに溶け込んでるかもしれないですけれど(笑)。

—— 例えば、どんなメッセージが溶け込んでいそうでしょうか?

例えば「なんでこんなにも同調圧力があるんだ!」みたいなメッセージが、作品の裏側には込められているかもしません(笑)。

僕から見ると、とくに若いやつらで、すごく優秀なのに自己肯定感がすごく低い人って多いなって気がしていて。

周りと合わせないといけないと思っているのか、そもそも優秀だから自分を客観的に見過ぎちゃって、自分はこのレベルだって判を押してしまうのか。そうやって悶々としているやつらに「そんなこと関係なくない?」って言ってやりたいですね。

直接言うのではなく、自分の絵や作品が、「いま私が悩んでいることって、全然大したことないじゃん!」って気づくきっかけになってくれたらいいなとか、そんな風に役立ってくれたらいいななんて思います。

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無条件の癒やしではない “心地よさ” を求めて

—— 最後に、今後のチャレンジについて教えてください。

もっと自分の絵が、エンターテイメントに見えたらいいなとは思っているんですよ。そうしようと頑張ってきているところなんだけど、どうも暗い感じが拭いきれないところもあって(笑)。

音楽でいえば、ノイジーだけどポップみたいな音楽があると思うんですけど。そういう “聴きやすい音楽” にしていきたいという欲望はあります。

—— 武さんのいうエンターテイメントというのは、見やすい・分かりやすい作品ということですか?

というより、“心地よい” に近いのかな。表現がちょっと難しいんですけど。

岡本太郎さんの「今日の芸術は...(中略)ここちよくあってはならない」という言葉を受けて、ただ気持ちがいいだけの「癒し」はアートではないよなって否定しながらずっとやってきたんですが、ここにきてちょっと違うのかなって。

岡本太郎さんが生きた時代が過ぎた今、もう一回考えてみたんですけど、この言葉は、ある意味 20世紀だから通用したのかなと。そういう意味では、来る未来には「心地よい」ことも大事になってくるのかもしれないと。

でも “心地よい” って、けっこう難しいですよね。おそらくは、無条件に癒されるというよりは、ツボを押されて痛いけど気持ちいいみたいな、そういう感じなのかな。多少は痛みを伴った何かみたいなものなのかな、僕の中での心地よさの定義っていうのは。

—— 甘いだけではないスイーツのようですね(笑)。

やっぱり、多少はほろ苦さもあるほうが、甘いスイーツだって美味しく感じるんだよね、僕の場合は。そういう何かが欲しいわけで。その心地よさですかね。

—— 今後は、心地よさを課題に表現をされていくんですね。

そうですね。心地よさって誤解を受けやすい表現でもあるんですけれど。でもそれでポーンって抜けた感じになるのかなって。一回内に入って、そこから外へ突き抜けるみたいな。

—— 人生のどん底でアートに出会い、社会問題をテーマにエッジのきいた創作活動をも展開されていた武 盾一郎さん。とてもエネルギッシュで、そしてとても繊細で、まさに現在の彼の作品のような方でした。本日はありがとうございました!

文:mecelo編集部 / 写真:須志田泰輔

武 盾一郎さんインタビュー 前編はこちら

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線譜画家