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絵を描くことが好き ー 自分の素直な気持ちを大切にして、これからも描き続けていきたい【後編】

イラストレーターになりたいという夢を持ちながらも、生活に困らないようデザイナーとしてキャリアをスタートさせた熊谷奈保子さん。後編では、熊谷作品に欠かせないキーワード“ちょっとファンタジー”へのこだわりから、どのようなイラストレーターを目指しているのか、描くことへの想いをお話いだきます。

絵を描くことが好き、だからイラストレーターになった

—— 大学卒業後、一時は生活に困らないようにとデザイナーの仕事を選びました。デザイナーとして働きながらも、いつかはイラストレーターになろうと思ってはいたんですか?

どうだったんだろう。働いていたときは、デザインもいいなって、デザイナーに気持ちが揺らいでいたことはありました。

そもそも、イラストレーターとデザイナーって、似ている部分もけっこうあると思っていて。イラストレーターもデザイナーも、自分の好きなことばかりできるわけじゃないじゃないですか。

—— では、イラストレーターとして成功できたとしても、気の進まないお仕事がくることは想定されていたんですね。

はい。

—— 似ているところも多い。でも、なりたいのはイラストレーターなんですね。

そうなんです。

—— イラストレーターのほうが、ご自身に合っていたのでしょうか?

そうだと思います。

もはや私の中では、イラストレーターとデザイナーの境界線もけっこう曖昧な気がしています。イラストを描けるデザイナーさんもいますし、逆にデザインまでお任せできるイラストレーターさんもいます。

自分の中でも、明快に区別できているわけではないのかもしれません。ただ、私は絵を描くことのほうがより好きというだけで。

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“ちょっとファンタジー” ー そんな世界を表現していきたい

—— 熊谷さんの作品は、“ユーモア” という言葉がしっくりくるなと感じています。中でもお手製の立体カードは、単に絵を見ているというより、ひとつの物語を見ているような、奥行きを感じます。

ありがとうございます!ちょっとした驚きをプラスしたり、ハッとするような仕掛けのあるものが個人的に好きで、そういうものは意識して作っています。

—— 「ビーナス誕生のちょっと前」という作品の視点がとてもユニークですよね。ちょっとズレた視点、そこから生まれる“可笑しみ”が、熊谷さんの表現なんだなって思いました。

絵を描くときも、紙でカードなどの雑貨をつくるときも、なにかひとつアイディアを取り入れたいと思いながら作っています。色や構図、モチーフ、何でもいいのですが、小さくても驚きを感じてもらえるもの、そういったものを私は “アイディア” と呼んでいて。できれば、今までに見たことのないようなものを... といつも考えを巡らせていますね。

あとは、現実とファンタジーの間、そんな世界観を表現したいなとも思っています。

—— 現実とファンタジーの間には、どんな魅力があるのでしょう?

単純に、私が見てみたいというのが一番の理由ですね(笑)。

“ちょっと” ファンタジーというのが好きなんです。スタイリッシュな絵を描きたいと思っていた頃もあったんですけど、自分が自然に描けるものが、ちょっとファンタジーな世界だったんです。

それに、ファンタジーな絵を描くほうが、人から喜ばれることも多くて。なので、自分でも描いていてとても楽しいですね。

—— 本や映画でも、ファンタジー作品はお好きなんですか?

それが、映画のファンタジーは全く好きじゃないんですよ(笑)。

—— そうなんですか!? 意外ですね(笑)。

そうなんです(笑)。“ちょっと” ファンタジーなものが好きなんです。全部がファンタジーだと、自分の住んでいる世界と違い過ぎてついて行けなくなっちゃうというか、よく分からなくなってしまうんです。コテコテのファンタジーというより、“現実に潜む” ファンタジーみたいな作品が好きですね。

熊谷奈保子さんの作品

—— 映画でいえば、どんな作品ですか?

ジブリの『耳をすませば』は、すごく好きです。現実の世界を舞台にしながらも、ファンタジックな要素が随所に散りばめられていて。こういった世界観は、私はすごく好きですね。

—— まさに、“現実に潜む”ファンタジーな作品ですね。

はい、すごく惹かれます。

あとは、ファンタジーではないんですけど、『リトル・フォレスト』という映画も好きです。原作は漫画で、山間(やまあい)の小さな集落に住む女性が畑を耕して、自給自足に近い生活をおくる様子を淡々と描いたストーリーなんですが。

山間に住んでいない、自給自足してない私からすれば、彼女の生活もまさに非日常そのもの。自分の常識からはちょっと離れているという意味でのファンタジー、非日常性というのも好きなテーマですね。

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作品には欠かせない、受け手が楽しくなるような仕掛けづくり

—— 熊谷さんのいう “仕掛け” や “アイディア” って、具体的にはどういったものなのでしょう?

ちょっとファンタジーな世界を表現するために、私は仕掛けやアイディアを用います。

例えば、現実には同じ場所に存在することのないモチーフ同士を同居させるだけで、絵の世界にちょっとした不思議さが生まれます。あとは、片方のモチーフだけのときには想像しなかったような物語が生まれたり、その物語自体がどんどん発展して広がっていったり。そうやって、ちょっとだけ現実世界をいじることで、新たな視点や物語が生まれてくると思っていて。

カードの場合は、カードと送る相手とをつなぐものとは何か?ということをよく考えます。カードを開いた時に「あ!」と驚いてもらえるように、相手にとって大切なものだったり、身近なものだったり、懐かしくなるようなものだったり... そういった要素を作品に取り入れるんです。

こういった “仕掛け” があると、単純に面白い!って感じてもらえるのかなと。また、作品が見やすくなるかなとも思っています。

—— 見やすくなる?

作品に反応しやすくなるのかなと。いま自分の答えを聞いて、まだまだデザイナー気質が抜けてないんだなーって、思っちゃいましたけど(笑)。

—— ああ、楽しむポイントがわかりやすいということですか?

そうです。“ちょっとファンタジー” という要素を作品に仕掛けることで、そのメッセージを受け取った方が楽しい気持ちになってくれたら嬉しいなって、思っています。

デザインの仕事を長くやってきたからかもしれませんが、やっぱり相手の反応は気になります。もちろん、相手(クライアントやその先のお客さま)に喜んでもらうことばかりに意識がいってしまうのは良くないと思いますが、“相手のことを考える” くせが身に付いたことは、デザインをやっていて良かったことでもありますね。

—— 熊谷さんの “ちょっとファンタジー” な世界は、どのようなプロセスで作られていくのでしょう?

ノートを広げて、まずは適当に思いついたものをどんどん描いていきます。描いたものたちを眺めながら、これとこれがこうなっていたら面白いなとか、じゃあ、こっちがこうなっていったらどうだろう?とか、どんどん妄想を広げていきます。

たくさん描いた中から、テーマがぽっと生まれてくることもあれば、言葉からイメージが広がっていくこともあります。ちょっとひねった言葉や、ありそうでなかった言葉を考えるのが好きですね。この「山を縫う」や「夜を編む」といった作品は、言葉からイメージが広がっていった作品です。

—— 全体的に自然を描くことが多いように感じますが、意図的に自然を描いているのでしょうか?

自然がすごく好きなんです。とくに植物にあるような細かいパターンや有機的な曲線に魅力を感じています。出身がちょっと田舎なことも関係しているのかもしれませんが、あまり意識せずとも、自然っぽい要素は入ってきますね。

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全く興味のなかった絵本づくりの波がやってきた

—— 昨年、お子さんが生まれて、創作に関して変わったことはありますか?

自分では、変わっていないと思ってます(笑)。子供が生まれたことで変わりたくないな、変わるのは嫌だなって思ってるんです。

—— なぜ変わるのが嫌なのでしょう?

ただの “あまのじゃく” なんです(笑)。

周りの人たちが、出産すると皆子供のために何かつくるようになっていくのを見てきて、私はそうはならないようにしようって(笑)。昔からなぜか、みんながやってるなら私はやらないって思っちゃうくせがあって...。本当にただ、あまのじゃくなんだと思います。

—— でも、目の前にお子さんがいたら、気持ちが動いたりませんか?(笑)

そうなんですよ。もうすでに絵本を作ってあげたいって、思っちゃってます(笑)。

いままで絵本制作には全く関心がなかったんです。でも最近、私の絵を見てくださったギャラリーの方から「絵本に向いてるイラストだね」って言っていただいたり、子供の寝顔を見ていたら「絵本でも作ってあげたいな」なんて思うようになったり...。これって、絵本をつくる流れがきてるってことのかな?って(笑)。

—— そうだと思いますよ。いい流れじゃないですか!

そうですよね。ここは素直になって、この流れを受けてみようとは思っています。こうやって、ついに(絵本を)描くことになっちゃうんですね(笑)。

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素直な気持ちを大切にして、作品をつくり続けていきたい

—— そんな変化の真っ最中にいらっしゃる熊谷さんですが、今後やっていきたいことについて教えていただけますか?

まずは個展ですね。展示会を開催したいです。

あとは、デザイナーの夫とふたりでも活動をしていて、私がイラストを描いて、夫が雑貨などのプロダクトデザインを担当しているんですが、こちらの活動ももっと積極的に広げていきたいなと。

そして、立体カードなどの紙雑貨の制作も早く復活させたいですね。出産前は、よく友人宛に立体カードを作っていたのですが、今はちょっとお休みしていて。また作りたいです。

—— イラストレーターと聞くと受注制作するイメージがありますが、熊谷さんはあくまでもご自身の絵やカードなどの紙雑貨を作っていきたいと考えているんですね。

そうですね。自分が良いと思って作ったものをそのままのカタチで伝えられて、それが人にも喜ばれたら、そんな嬉しいことってないなと思っていて。

好きなイラストレーターさんがたくさんいるんですが、彼らがお仕事として描く絵ももちろん好きなんですけど、作品として描かれたものの方により心動かされることが多くて。そういう気持ちになることが多いからか、私の絵も “作品” として見てもらいたい気持ちが強いんだと思います。

もはや、イラストレーターなのか作家なのか... 自分でもよく分かってないですね(笑)。ただ、今は絵を描きたいという素直な気持ちを大切にして、自分の作品をどんどん世の中に出していきたいです。

—— デザイナー、イラストレーター、作家... その間を自由に行き来しながら、ご自身の好きな世界を表現されている熊谷さん。紆余曲折ありながらも、最終的にはご自身の素直な気持ちに従って、夢だったイラストレーターとして歩き始めた熊谷さんの今後の活躍が楽しみです!本日はありがとうございました!

文:mecelo編集部 / 写真:林 直幸

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