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スポーツからアート、そして平面から立体へ。大きな変化を経ても、常にあるのは「どれも自分の仕事」という意識【前編】

一時は、プロスポーツ選手を目指していたという田中悠さんがアートの世界に足を踏み入れたきっかけは「長年のコンプレックスを解消したかった」から。インタビュー前編では、そんな田中さんを魅了してやまない「陶芸」や、ユニークなオブジェ作品についてお話しいただきました。

コンプレックスを解消したい!からアートの道へ

—— いつ頃から、創作やものづくりを始められたのですか?

小さな頃から、ものを作ること、手で何かのカタチを作ることは大好きでした。逆に、絵を描くことは嫌いで。絵については、幼い頃から「自分はまわりに比べて、絵心がないな」と感じていて、コンプレックスを感じていました。

—— ご自身では、絵が得意な人間ではないと感じていたんですね。

割と早い時期から、私は “まわりと自分とを比べる” ことをしていて、幼稚園の頃にはすでに「自分はまわりに比べて、絵が上手ではない」という自覚がありました。

いま思えば、ただの思い込みだったのかもしれませんが、当時はまわりの子たちが描く絵がすごく上手に見えていたんですね。なので、小学校に上がる頃には、絵を描くことに対する興味はなくなっていました。

—— コンプレックスを抱えていたという「描くこと」に、美大進学という形で再チャレンジされます。どんなきっかけがあったのでしょう?

18歳くらいだったと思うのですが、突然、この(絵に対する)コンプレックスを解消してみようかなと思ったことがきっかけです。

—— 突然、「コンプレックスを解消したい!」と思ったんですか?

実は、中学高校時代は、スポーツ一色だったんです。

種目はテニスで、プロ・テニスプレイヤーを育成する専門のスクールに所属して、プロの選手を目指す、そんな世界にいました。将来はプロ・テニスプレイヤーになるんだって、そうなることを疑いもせず、日々練習していました。

でも、18〜19歳くらいのときに、「このまま、テニスを一生続けていくことはできない」と、自分で自分の将来が分かってしまったんです。

早い人であれば、10代で大きな舞台にどんどん出ていきます。でも自分はそうではない。このまま続けていっても、そこそこの選手になって引退して、そこそこのコーチになるしか道はないんだろうなって、自分の将来がすごくリアルにイメージできてしまって。

それを目標にこのままテニスを続けていくのか、今のうちに全く別の道に進むべきか、そこで初めてテニス以外の可能性が出てきて、私は後者を選ぶことにしました。

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—— テニス以外の道として選んだのが、アートだったんですね。

“道を選ぶ” というほど、すごく強いものではなくて。テニス以外で、ずっと続けられる趣味みたいなものを見つけようと思ったときに、「自分は絵が下手だから、人並みの絵心を身に着けたいな」って、そんな軽い気持ちからアートの世界に興味を持ち始めたんです。

—— たくさんの選択肢があった中で、なぜアートだったのでしょう?

きっかけは、ただただ “長年のコンプレックス” を解消したいというシンプルな想いからでした。

気軽な感じでのスタートだったので、まずは参考書を読みながら独学で絵の勉強をしました。でも一向に上手くならないので、画塾に通うことにしたんです。

画塾に行ってみたら、自分と同じように絵の勉強をしている人たちがたくさんいて。同じ趣味をもった仲間たちと一緒に学んでいくことは楽しかったですし、石膏デッサンや木炭、油絵など、学校では教えてくれないような学びがすごく面白くて、いつしか「もっと勉強したい!」って思うようになっていました。

凝り性だからか、やり始めたら始めたで、もっと本格的にやってみたい!って思ってしまう質で。最終的には、専門的に学びたいという理由で、美大への進学を決めました。

田中 悠さんの作品

Works1

からだ全体でつくる「陶芸」に魅了されて

—— 陶芸は、いつ頃から始められたんですか?

大学入学時は、油画を専攻していたのですが、華道の授業でつかう花器を自分で作ってみたいと思ったのをきっかけに、3回生のときに専攻を油画から陶芸へ変更しました。

陶芸に移ってみると、それまで日常的に身体を動かしてたこともあって、より “自分に合っている” と感じましたね。

—— どんな点が、ご自身に合っているなと感じたんですか?

手だけを動かすよりも、身体全体をつかって作っていく工程が、“自分らしいな” と、すごくしっくりした感じがあったのは覚えています。あとは、“土をあつかう” ということが、一番大きかったと思っています。

—— それは、どういうことですか?

対象と自分との間に、何も繋ぐものがないということです。

例えば、絵なら、一般的には「筆」が、作品と自分自身とを繋いでいます。でも陶芸では、直接 自分の手で土に触れ、そして作品を作っていきます。それこそ自分の手の跡が残るくらいに、身体の運動に密着した素材であるという点に強く惹かれました。

—— 平面から立体へ、ご自身の中でもかなり大きな変化だったのではないでしょうか。

もともと、いま絵を描いているからといって、必ずしも「絵描き」を目指さなければいけないとは思っていなくて。

ひとつのジャンルを極めた人が、途中で他の素材や表現に魅せられて、表現を変化させながらも、でもいずれの作品も一貫して自分の表現ですと、そういう風に活動されている方はたくさんいますし、そういう意味でも私自身、素材を変えること自体にはあまり抵抗は感じていなかったですね。

おそらく、根底に「どうやったって、自分の仕事であることには変わりはない」という想いがあるからだと思います。

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—— 現在のような、独創的なオブジェを作り始めたのは在学中からですか?

はい、そうです。もともとは食器を作りたくて陶芸に移ったのですが、当時、私が師事していた先生のほとんどがオブジェをつくる方でした。

その道で成功し、世界的に活躍されている作家さんが目の前にいる環境だったこともあって、自然と同じ道へ進みたいと思うようになりました。

—— オブジェのどんなところが、魅力的だったのでしょう?

まず、先生方のつくる作品そのものが、すごく魅力的でした。あと、ひとつの作品を完成させるのに、長ければ 1〜2ヶ月はかかるという、対象への力のかけ方というか密度の濃さに魅力を感じました。

量産目的で作られるものに比べてオブジェは、人によっては年に数えるほどの作品しか作ることができません。少ないということは、逆にひとつひとつの作品に対し、密度のあるものを目指せるということでもあります。私は、そのスタイルに惹かれたんだと思います。

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“空っぽ” であることに必然性をもたせたくて

—— 田中さんの作品は、非常にユニークな形をしています。どんなきっかけで、現在のスタイルが生まれたのでしょう?

制作しているときに、ふと「空っぽの “中身” を、しっかりと囲うように外側を作っていく作業が、まるで “空間を包んでいく” みたいだな」と感じたんです。そこから、実際に何かを包んだように見える形を、土でつくってみたら面白いんじゃないかって、現在のスタイルの土台が生まれました。

陶芸は、立体物をつくるときには、必ず中を空洞にしないと、焼いているときに爆発を起こしてしまいます。中が空洞であることを仕方がないこととして捉えるのではなく、“空洞であることに意味がある” 、そんな作品をつくりたいとも思ったんです。

—— 当初から 、“布で何かを包む” スタイルだったんですか?

いいえ。当初の作品は、膨らました風船のような、表面がぬるっとした球状のオブジェに結び目をつけたものでした。その後、表面にシワが刻まれるようになって、そのシワがどんどん複雑に変化していって、そして現在のまるで布で包んでいるかのような形になりました。

土はデリケートな素材でもあるので、形を作っていく最中からどんどん壊れていってしまうこともあります。スタイルについては、さまざまな試行錯誤を繰り返していくうちに進化していったものでもあります。

—— より “身体的” に作れることが陶芸の魅力のひとつでありながら、デリケートな素材であるがゆえに、湿度や温度など、ロジカルに管理しないといけない部分もありそうですね。

ロジカルに管理するというより、「土の都合に自分の生活を合わせて」いかないといけないと思っていて、それについては割りとすんなり受け入れることができたと思います。

例えば、土の様子を見て、この調子なら明日はこれができそうだなと計画を立てても、実際に次の日になってみたら、湿度が高いとか乾燥が足りていないとか、さまざまな理由から予定していたことが進められないということは日常茶飯事です。でも、そういったことも含めて、楽しみながら作っています。

—— 土の都合にご自身の生活を合わせるほどなのに、でも作品には土っぽさを一切感じさせない。このギャップも、田中さんの作品の面白さにつながっていそうですね。

油画を2年間勉強した経験は大きかったなと思っています。例えば、最近の作品にのせている黄色のような鮮やかで奇抜な色は、いわゆる工芸の「王道」ではありません。

そのような鮮やかな色をのせることに、さほど抵抗を感じなかったのは、他分野の勉強もしていたからだと思います。

文:mecelo編集部 / 写真:えなみ さとこ

後編では、誰もが目を奪われる作品にのせた鮮やかな色の秘密と、今後のチャレンジについてお話しいただきます。

田中 悠さんインタビュー 後編はこちら

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Icon田中 悠

陶芸作家