05

スポーツからアート、そして平面から立体へ。大きな変化を経ても、常にあるのは「どれも自分の仕事」という意識【後編】

一時は、プロスポーツ選手を目指していたという田中悠さんがアートの世界に足を踏み入れたきっかけは「長年のコンプレックスを解消したかった」から。後編では、誰もが目を奪われる作品にのせた鮮やかな色の秘密と、今後のチャレンジについてお話しいただきます。

包んだ中身の “存在” を伝えるための色

—— 印象的な色は、どのように決めているんですか?

最近のシリーズでは、包まれている中身を、すべて用途のはっきりしている食器にしています。例えば、皿や壺、茶碗などです。それらはよく「ウコン布」と呼ばれるウコンで染められた黄色い布で包んでから、桐箱に入れて保存します。私の作品の黄色は、そのウコン布をイメージして表現したものなんです。

—— 鮮やかな黄色にはそのような背景があったんですね!これまで、どんなものを包んできたんですか?

以前は、現在のように「中身」について、あまり具体的に決めていませんでした。中身よりも、外側の見え方によりフォーカスしていて、袋そのものに目が行くような作品をつくっていました。

そこから次第に、もっと中身を感じてもらえるようなものにしようと、立方体や半球体などのシンプルなシルエットのオブジェを布で包んだ形をつくり、色はニュートラルなグレーをのせ、陰影によって表れるグレー・グラデーションの美しさを表現していました。

—— ニュートラルな「グレー」から、意思をもった「黄色」へ。どのようなコンセプトの変化があったのでしょう?

さらに、中身をもっと具体的にしてみようという流れになり、今に至ります。

最近の「黄色い作品」シリーズは、用途のはっきりしているものをすっぽりと包むことで、そこから “用途” の部分だけを省き、用途のためにつくられた純粋な「形」のみにフォーカスする、そういったコンセプトで制作しています。

“お茶を注ぐ” という用途に最適な形状をしたポットを、すっぽりと布で包み、用途だけを取り除く(本来の用途では使えないようにする)ことで、純粋な立体造形物に変換することができないかと思ったことが、このコンセプトが誕生したきっかけです。

06

田中 悠さんの作品

Works1

“工芸らしくない” ところが作品の魅力

—— コンセプトに限らず、技法、表現方法もかなりユニークですよね。

絵の具も、近年開発されたという比較的新しい「下絵の具」をつかっています。すでにお話したように、長らく油画を学んできた影響もあってか、いかにも工芸らしい方法で制作していないことは、私の作品の特徴かもしれません。

—— お話を聞いていると、「陶芸家」と肩書をひとことでは言い表せない感じがしますね。

そうですね。決して、「陶芸家」と呼ばることを否定的に捉えているわけではないのですが、自己紹介で「陶芸家」と、ひとことだけで説明してしまうと、作品を見せたときに「イメージと違う」みたいなことを言われてしまうことはあります。

—— 田中さんの作品は、日本ではどのようなジャンルに分類されるんですか?

あえて部類するのであれば、どちらかといえば「陶芸」や「彫刻」だと思います。でも、自分ではあまり「陶芸だ」とか「彫刻だ」とか、ジャンルをきっちり決めようとはしていません。ひとつの「アート作品」である、とだけ考えています。

なので、作品を発表する際は、陶芸の公募展にも、彫刻の公募展にも出展しますし、アート全般の公募展にも出しています。

—— 分かりやすくカテゴライズできないことによる創作の弊害みたいなものはあるんですか?

それはないですね。そういった、どこにも属さない、あるいは複数のジャンルをまたぐような活動は、私よりも上の世代からありましたので。私自身は、カテゴライズできないことで何か不便を感じるということはありません。

07

何を作ろうとも、それは「自分の責任で作っていくもの」

—— 今後やっていきたいこと、チャレンジしたいことについて教えてください。

今後やっていきたいことは、とにかく作品を海外に持っていくことです。国内だけで楽しんでいただくのではなく、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなどの公募展などに積極的に出展していきたいです。

日本でいわれている「アート」って、海外からの、そして日本独自の芸術文化などが混ざり合い、ミックスされたもののことだと思うんです。

日本も、そしてアジアやアメリカ、ヨーロッパも、お互いに影響を与え合っているのに、自分の作品は日本国内だけに留まっているというのは、なんだか違うなって思っていて。自分の中では、自分の作品を海外に持っていくことは、すごく自然なことだって、そんな風に思いますね。

—— 日本の中だけに留まっているだなんて、もったいないですもんね!

もうひとつの目標は、アート分野で培った技術を、食器や日常的に使用するものの制作に落とし込むことです。これまで、ずっとオブジェだけを作ってきたんですけど、最近は作家性を含んだ食器制作も進めています。

例えば、オブジェ制作を勉強する過程で身に着けた布っぽく見せる表現を使って、布のような食器をつくるとか。オブジェ制作と並行して、こちらも同じように発展していけたらいいなと思っています。

—— なぜ今になって、食器や日用使いのものを作りたいと思うようになったのでしょう?

陶芸に進むきっかけとなった、花器や食器を作ったときの楽しさに改めて目覚めるではないですが、こちらにはこちらなりの楽しさがやっぱりあるので、作っていきたいなと思うようになりました。

私にとっては、アート作品であるオブジェも、日常生活で使われる食器も、どちらも「自分の作品」であって、「自分の責任で作っていくもの」と捉えているので、双方によい影響を与え合いながら進めていきたいですね。

—— ここでもジャンルにとらわれず、ご自身の好きな表現をしていくという田中さんの多様性が垣間見えますね。

長く陶芸を続けてきたからこそ、改めて興味がわき、またそれを実行できるだけの実力もついてきたということもありますね。なので、今は「できるんだったら、やってみよう!」という気持ちが大きいです。

—— スポーツからアートへ、そして平面から立体へ。大きな変化があろうと、常にブレない強さを感じるのは、「どうやったって、自分の仕事であることには変わりはない」と言い切れる田中さんの強い意志の表れなのだと思いました。本日はありがとうございました!

文:mecelo編集部 / 写真:えなみ さとこ

田中 悠さんインタビュー 前編はこちら

パートナーを募集中ですあなたも、田中 悠さんの創作活動を支援しませんか? パートナープランごとに素敵なリターンが用意されています。
Icon田中 悠

陶芸作家